「ようこそいらっしゃいました。うちはよそにはない
最新装置を備えておりますし、人員も充分。
かならずや満足のいただける介護をできると信じております」
老人ホームの職員が、やってきた体験入居者と
その家族を案内しながら、設備を誇らしげに説明する。
「ではちょうど時間ですので、食堂をごらんください」
中へ入り、食事風景を見た中年女性は声をもらす。
「なにこれ……」
すると施設の職員は、
「いいでしょう?」
誇らしげに言葉を響かせる。
「お年寄り一人一人に職員がつきそい、
ご本人の手となることで安心して食事をしていただけます」
「どうして食事を自分で食べさせないの?」
訊ねる言葉に、わからない顔を返し、
「はい? お年寄りが自分で食べては、
手もおぼつかないかたもいますし、こぼし、よごして不衛生な上、
効率もよくないでしょう?」
それからまた笑顔を見せると、
「では、次に自慢のお風呂に実際に入っていただきましょう」
更衣室には服を脱がす職員たちがおり、
入浴用の車椅子に老人が腰を降ろすと、
丁寧に服を脱がされて行った。
そのまま浴室へ運ばれていけば
壁に設置したクレーンのようなものでわきの下を固定され、
ぶらさがるような体勢で手順どおりの道をたどる。
まずは体にシャワーを浴び、体を洗う職員の元へ。
終わればまたクレーンが動き、今度は湯船へ。
そして湯船から出ればまた更衣室へ戻り、
職員に丁寧に体をふかれ、服がまた着せられるのだ。
「どうです? 最新の設備で、お年よりもらくらく、
気持ちよくご入浴いただけます」
自慢げな職員の言葉。
だが中年女性は言った。
「なんなの、これ? 揚げ物じゃないのよ?」
そして不安になり、訊ねる。
「トイレは、どうなっているんですか?」
「トイレなどありません」
職員は答えた。
「お年寄りと関わる時間を増やすため、
肌に優しい老人用おむつを使用し、
ご使用後はすぐさま交換いたしております」
そして一息つくと、言った。
「どうです、うちの施設は? 施設も人材も充分にお金をかけ、
どこにでも誇れる質の高さとなっております。
かならずご満足いただけるでしょう」
「ふざけないで!」
思わず怒鳴る女性。
「何で本人になにもさせないの!」
「はい?」
なにをいっているのかと言う顔で職員は言う。
「ご本人たちになさっていただくより確実で効率的で、
衛生的だからですよ」
心から信じる顔に女性は涙をこぼした。
「なにもわかってない。ひとは工業製品じゃないんですよ?
あなたたちがやっているのは自分たちの満足だけ。
自分でできるよろこび、自尊心すら老人から奪ってる。
……手をそぎ足をもぐ、そんな行為だって
わからないんですか!?」
すると、職員は言った。
「衰えた本人の力など、あるだけ邪魔ですから」