0954
2006-10-10
うそとうそ
 午後十時を回った駅からの道、歩く彼女の前に人影が現れると、
それは街頭の光をまぶしく映すナイフを突きつけこう言った。
「騒ぐな。騒いだら殺す。金を出せ」
「わ、わかったから、殺さないで」
 それだけ言うと彼女は大きく息を吸い、
「ぎゃー! 人殺しー! 身長百七十くらい、
わたしの背より頭一つ分くらい高い痩せ型黒髪の白人男性で
声はざらざら、息はたばこ臭くて鼻は開いて低め、
黒コートを着た男に殺されるー!」
 その叫びに男は飛び上がり、一言吐き捨てると駆け出した。
「くそ、嘘つきやがったな」
 彼女はその背中を見ながらつぶやく。
「あんたもそのつもりだったでしょ?」