0957
2006-10-11
おたく
 学校帰り、ファミリーレストランで
ジュースだけ注文して話していると、友達が急に黙った。
「どしたの?」
 訊いてみるわたしに、
『うしろ』
 口だけで答える。
「うん?」
 友達の後ろ。背中だけしか見えないけれど、
何人かの男の人がいて、なにかを話し合っている
らしいのはわかった。
「……いや、違うんだよ。それは今見るからだろ。
当時どれだけの衝撃を与えたと思う?」
「でも、それだけの意味しかないんじゃ、
やっぱり作品としては駄作じゃないか?」
「違うって。むしろ放映時の評判のほうが悪かった。
でもそれは、はじめっから冒険的な作りだったからだよ。
今見て話があたりまえで典型的過ぎるっていうなら、
それはあれが、後続の見本になってきたってことだ」
 そんな会話が聞こえてくる。
「なんかね、アニメの話してるみたい」
 口に手をあてて、友達が抑えた声でささやく。
「そんなのになに熱くなってるんだか。やだねえ、
アニメおたくって」
「そう? わたしはどっちかっていうと好きだけど」
「ええ? なんで?」
 驚いた顔に。
「だって、もしかしたらああいう人たちの中から、
すごいものを作る人が出るかも知れないんだよ? 
アニメじゃなくて映画ならいいって言うなら、
映画監督だってどこかしら映画おたくだろうし、
アイドルがアイドルでいられるのも、
そこらへんにアイドルおたくがいるから。
金持ちはブランドおたくで薀蓄を披露して
高いものをみせびらかすし、
それを売る商売だって足元を見ながら立派に成立してる。
……でも、ある意味じゃ、そんなおたくの人たちは無害じゃない。
アニメの主張のぶつかり合いで人を殺すわけでもないし、
アイドルの派閥で戦争をおこすわけでもないし」
 わたしが言うと友達はあきれた顔をして、
「まーた極論で言うんだから。
そりゃどんなおたくでも戦争の話になんてなるわけないじゃない」
「ところがそうでもないんだなあ。いるでしょ、
お宅からはみ出て世界を巻き込むほどの最悪のおたくが」
「なに?」
 ため息混じりにわたしは言った。
「宗教おたく」