ゼミの旅行で何台かの車に分乗しての道すがら、
話はなんとなく怪談へと移っていった。
「じゃあ、おれか」
こほんとせきばらいをして、助手席に座る男子が口を開く。
「昔うちの近所に古い神社があったんだ。
ぼろい社は表からは開かないんだけど、
裏には穴が開いてて小学生くらいなら入れて。
で、うわさだったのが、あの中になにか人がいるっていうんだ」
ああ、あるある、そういう話。
「そこでおれも他に友達誘って、四人で夜中に忍び込んだんだよ」
……どうしてそういうこと、するかなあ。
「それからやりかた通りにみんなで黙って、
暗闇の中で角に散らばった。
そして、開始だよ。おれが壁を伝って歩いて、
別の角にいる奴に触る。触られた奴は同じようにして
別の角にいる奴に触る。それだけ」
あれ? それって……
「で、歩いてる音は聞こえるし、普通に何かやってるのはわかる。
二人目が歩いて、三人目が歩いて、
四人目が歩いて……おれに触る。
そしたらおれが歩いて、一人目に触って、そいつが次のに触る。
でも、それだけ。真っ暗だし時間もわからないし、
思うだけだともう何時間も歩いてる気がしてきた。
そこで誰かが言うんだよ。『なんにも起こんないじゃん』って」
「うわ〜」
隣で上がる声。
「確かにそうなんだよな。小学生のばかがきばっかだから
全然なんとも思ってなかったんだけど。
ちょっと考えてみてくれよ。
こう……部屋に四人が立つとするだろ?」
そう言って手を上げて、四人の場所を指で示した。
「それで一人が次の角に行って、次の奴に触ると。
そこで一瞬二人になって、一人が押し出される感じだろ?
次もそうで、その次も。でも四人目が元の場所に行くと……」
「うおっ、怖え!」
そう。元の場所にはだれもいないから、
最初の人にだれかが触りにいけるはずがないんだ。
「でも、もう少しやってみようってことで、そのまま続けた。
おれの肩を触る誰か。おれが体を触るだれか。
次々つないでるだけなのに、何も変わったことは起こらない」
「起こってる起こってる」
「でも何も思わずに歩き続けたおれたちはさすがに疲れて
とうとう懐中電灯をつけたんだ。すると……」
ごくり。息を殺してつばを飲む向こう、
彼はゆっくり息を吸い、叫んだ。
「部屋が三角だったんだよ!」