その日、地下のライブハウスはあふれるほどの人だかりだった。
ステージまで押し合うほど押し寄せる人の前、
肌を露出する衣装とはでな化粧で決めた女性は
マイクに向かって口を開く。
「今日はほんとにありがとう! わたしたちの最後のライブ、
めいっぱい楽しんでいってください」
なんでやめちゃうのー!
客席から上がる声。
「音楽性の違い、かな。最初はめざすものは一緒だった。
でも今は、それぞれ欲しい音は違うから」
……なにが音楽性の違いだ。
彼女の後ろ、ドラムの男が吐き捨てる。
どうせ金だろ、金。自分がメジャーデビューできるからって、
邪魔になったおれたちを切り落としただけじゃないか。
おまえの音楽性なんてそんなもんかよ。
彼らの想いなど知るところもなく、
ライブは激しい盛り上がりを見せた。
興奮さめやらぬまま打ち上げで飲むメンバー。
ひとしきり食べ、飲み、支払いになると、
酔いに任せてドラムは女性に言った。
「ああ〜、いっけねえ。今日は音楽性の持ち合わせがねえや。
出世払いにしといてくれよ」
それを聞き、彼女は言った。
「欠けることはあっても豊かになることはないでしょ、
あんたの音楽性と人間性は」