0961
2006-10-11
くされ泥棒
 年明けから間もないある日。
彼は居間で札束一つを前にしてうなりごえをあげていた。
「なんだ、いたのか兄さん。……どうしたんだ?」
 兄と呼ばれた彼は、突然現れた弟を悲しい目で見て答える。
「いや、なんだか商売がうまくいかなくてな。
もう残りの予算はこれだけになっちまった」
「ははは。なに言ってるんだよ。
減ったらまた増やせばいいだけじゃないか」
 驚く兄は訊ねる。
「なんだ、おまえにそれができるのか?」
「もちろん。だてに政治家をやってるわけじゃないぞ」
 そして弟の指示するとおり、彼は壁を塗り、
外壁を壊して配線を整えてはまた壁を修繕して塗りなおし、
同じような修理で手持ちの金をほとんど使い切った。

 だが、いくら待っても金は増えない。
次第に日々の食事にも事欠くようになり、
耐え切れなくなった彼はとうとう弟に電話をした。
「おかしいな……」
 弟は言う。
「おれはずっとその手でうまく行ってたのに」
「どうなるはずだったんだよ」
 彼の問いに、返る言葉は。
「とにかく予算さえ使い切れば、
新年度で金がわいてくるはずなんだけどなあ」