0965
2006-10-12
創意工夫
 海の近くに古ぼけた小さな定食屋がある。
前に近くの会社で働いていたときには
毎日のように食べに行った店だ。
 それから半年。また支店行きの辞令を受けたおれは
アパートに荷物を運び入れると、さっそく店へと足を運んだ。

「あら、いらっしゃい。ひさしぶりじゃない〜」
 数個しかないテーブルと厨房脇のカウンターの間で
振り向いて懐かしそうに目を細めるおばちゃん。
飾らないこの店の雰囲気も大好きだ。
「今日こっちについたんですけど、
取るもとりあえず来ちゃいました。
またしばらくお世話になりますよ」
 ぼくの言葉に昔のままの人懐こい笑顔。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
じゃあおまけもつけちゃうから食べてってよ」
 元からそのつもりさ!
 そそくさといすに座り、見るまでもないメニューに
目を通しながら颯爽と注文……
「って、あれ? いかそうめんは?」
 思わず言うと、おばちゃんは残念そうな顔をして。
「最近、シュレッダーに指すら入らなくなってねえ」