「なー、金貸してくれよ」
街角で自分より弱そうな者から金を巻き上げる専門のこの男。
実はその体のほとんどが善意でできているとは
もはやだれも気付かない。
幼い頃、彼は病魔に侵されていた。
当時、臓器移植しか命を救う手立てはなく、
それには莫大な費用が必要だった。
周りの人々は命を助けようと必死に金をかき集め、
はからずしも命を失った者から血と肉が提供され、
そうしてようやく行われた手術によって、
彼の体は生きる力を与えられた。
これからどう生きたいかと問われたとき、
彼は答えたものだった。
「たくさんの人から返しきれないものをもらいました。
一生かかってでも返していきたいです」
一方今の彼は。
「なー、金貸してくれよ」
街角で自分より弱そうな者から金を巻き上げる専門のこの男。
実はその体のほとんどが善意でできているとは
もはやだれも気付かない。そして、その心のほとんどが
悪意でできているとは、見た目でわかるはずもない。