0968
2006-10-12
命のシナリオ
 最近、手術すれば治る難病の人のために
テレビや雑誌で募金を求めるのを目にするようになった。
 これなら息子も助けられるかもしれない。
 すがる気持ちでテレビ局に手紙を送ると、
すぐに戻ってくる返事。
 わたしは求められるままに今までの経緯をしたため、
息子の写真を同封して急いで返信した。
 ああ、これで息子も。息子も……!
 でも、返って来たものには。

  『残念ながら、お力になることはできません』

 なぜ!? どうして!?
 悔しくて信じられなくて、納得できなくて。
わたしは直接話を聞こうとテレビ局へと向かった。
 軽くあしらわれ、追い返されそうになってもなんとかお願いし、
頼み込んで土下座して待って待って待って
ようやくあわられた関係者。
 もらった手紙も見せ、何とかして欲しいと訴えると、
「奥さん、残念ですけどね」
 通された小部屋で、偉そうなその男は言った。
「お手紙差し上げた通り、息子さんをとりあげるのはむりですよ」
「どうして!」
 向かいに座る男に向かって思わず身を乗り出すわたしに、
「だってねえ、息子さん、男でしょ。見た目もよくないし、
病気だって珍しいものじゃない。
しかももう青年から中年になりかけ」
「それの何がいけないんですか」
「あのねえ」
 ため息混じりに答える。
「関心が集められなかったら視聴率がとれないでしょ。
大人、野郎、これはいただけない。大人でも女性なら
まだ薄幸の美女って見せ方もできる。でも一番はこどもだね。
未来あるこどもが死にそうって、
これなら偽善者の同情も金もとれるし、
応援するうちらの心証もよくなる」
「でも……でも、お金がなければ息子は
遠くないうちに死んでしまうんですよ!」
「知らないよ、そんなもん。毎日だれか生まれて
誰か死んでるんだ。中には病気のやつもいるだろう。
それをいちいち取り上げてたら話題にもなにもなりゃしない」
 食いちぎりそうになる唇から歯を上げて、
わたしは何とか口にする。
「どうにか、どうにか考え直してもらうわけには?」
 すると軽く笑って男は言った。
「視聴率とれそうで、いいスポンサーがつきそうな
企画書でも出してくれれば、あるいはね」