0997
2006-10-23
軽蔑
「あーあ。今からなりたい職業なんてわかるわけないっつーの」
 息子がテーブルにもたれながらため息をついた。
「なあに、進路調査? でも中学のころからでも、
将来どうしたいかを考えるのは大事なことだと思うけど」
「え〜。どうせ就きたい仕事につけるわけでもないし、
その時考えればいいじゃん。ぜいたくは言わないから、
適当に金稼げて変な仕事でもなけりゃ、どんなのでもいいよ」
 すこし むっとしてわたしは言った。
「なに、その『変な仕事』って。仕事に貴賎はないんだよ」
 すると息子は表情のわからない細めた目を向けて、
「それ、欺瞞じゃなくて本気で言ってる?」
「あたりまえでしょ」
 わたしの言葉に口の端で笑う。
「じゃあ、おれ仕事決めたよ」
「なに?」
「一人暮らしの老人専門の押し込み強盗。
年寄りは少ない年金で生きていくために結構金ためてんでしょ? 
しかも見つかったところで抵抗もされないし、
これ以上楽な相手はないよ。入ったらとりあえず金探して、
見つかっても見つからなくても家の人間は殺してく。
何百人、何千人だって殺してやるんだ」
「なんでそうなるの?」
 薄く軽蔑のような気持ちをもちながら訊ねると、
息子は鼻で笑うような息をこぼして言った。
「もしつかまって、『なんでこんなことをしたんだ』って
訊かれたら、おれは誇らしく言うよ。
『母が、こんなおれの仕事でも尊いものだって言ったからだ』」