1012
2006-10-31
好きだから
 平均寿命を超えて父が亡くなり、家でのお通夜。
 やってきた父方の親戚はみんな手に手にお酒を持っていた。
「あいつは酒がすべての人生だったからなあ」
 はじめて見る誰かのつぶやきに周りもうんうんとうなづく。
「酒がすべて? 父さんが?」
 昔見ていた父は仕事をまじめにこなし、
家に帰って食事後の一杯をちびちびとやる程度だったはずだ。
 そう訊ねると母は楽しそうに、そして寂しそうに笑って、
「あの人は『仕事の後の一杯がなによりうまい』って、
ただおいしくお酒を飲むために働いてたんだよ」