うう〜、うぅう〜……
「う」
目が覚めて、初めて目が覚めたとわかる夢。
どんなものかは覚えてないけれど、
ひどく恐ろしいものだったことは覚えている。
耳の横にあるみたいに心臓が痛くてうるさい。
どうしてかぜをひくと嫌な夢ばっかり見るんだろう。
「トイレ……」
なんとか起き上がるけど頭はぐらぐら、背中はぞくぞく。
廊下の冷たさが指先からじんじんとしみこんでくる。
今日は学校をお休み。なのにこんなわたしを放っておいて、
おかあさんは仕事に行った。
「あ」
ごがん。
よろけた拍子にものすごい勢いで頭が壁に当たった。
ほんとならすごく痛いんだろうなあ。
「なに、どうしたの!?」
部屋から出てくるおねえちゃん。
「あ、起きたの? どこいくの?」
「トイレ……」
「トイレ行く? 歩ける?」
答える前にそばに来て肩を貸してくれた。
「うわ、パジャマびしょびしょじゃない。
戻ったら体拭いて着替えなきゃね」
「ん」
いいにおい、おねえちゃんのにおい。
顔の横できれいな黒い髪がさらりと揺れる。
「大学は?」
「今日は休みにした」
部屋に戻るとわたしをベッドに寝かせて、
パジャマを剥がして体を拭いた。
「もう、やー」
寒い。タオルはあったかいけど、
体のまんなかから止まらない震えが歯を鳴らす。
「待って待って。もうちょっとだから」
急いでパジャマでくるんで布団をかけて。
しばらくしたらようやくあったかくなってきた。
「もういい? じゃ、行くからね」
「や〜」
ふとんから手を出すと、おねえちゃんは小さく笑って
わたしの手を握った。
「今日はあまえんぼだね」
見たこともないやさしい笑顔で頭をなでた。
今日のおねえちゃんはおねえちゃんじゃないみたい。
「ずっといてね」
「だいじょうぶだよ、ちゃんといるからゆっくり休んで」
やっぱりだ。
でも、こんなおねえちゃんだったら――
「今日みたいな子でいるんだったら――」
おねえちゃんと一緒につぶやいた。
「ずっとかぜをひいててもいいなあ」