1021
2006-11-01
 うう〜、うぅう〜……
「う」
 目が覚めて、初めて目が覚めたとわかる夢。
 どんなものかは覚えてないけれど、
ひどく恐ろしいものだったことは覚えている。
 耳の横にあるみたいに心臓が痛くてうるさい。
 どうしてかぜをひくと嫌な夢ばっかり見るんだろう。
「トイレ……」
 なんとか起き上がるけど頭はぐらぐら、背中はぞくぞく。
廊下の冷たさが指先からじんじんとしみこんでくる。
 今日は学校をお休み。なのにこんなわたしを放っておいて、
おかあさんは仕事に行った。
「あ」
 ごがん。
 よろけた拍子にものすごい勢いで頭が壁に当たった。
 ほんとならすごく痛いんだろうなあ。

「なに、どうしたの!?」
 部屋から出てくるおねえちゃん。
「あ、起きたの? どこいくの?」
「トイレ……」
「トイレ行く? 歩ける?」
 答える前にそばに来て肩を貸してくれた。
「うわ、パジャマびしょびしょじゃない。
戻ったら体拭いて着替えなきゃね」
「ん」
 いいにおい、おねえちゃんのにおい。
顔の横できれいな黒い髪がさらりと揺れる。
「大学は?」
「今日は休みにした」
 部屋に戻るとわたしをベッドに寝かせて、
パジャマを剥がして体を拭いた。
「もう、やー」
 寒い。タオルはあったかいけど、
体のまんなかから止まらない震えが歯を鳴らす。
「待って待って。もうちょっとだから」
 急いでパジャマでくるんで布団をかけて。
しばらくしたらようやくあったかくなってきた。
「もういい? じゃ、行くからね」
「や〜」
 ふとんから手を出すと、おねえちゃんは小さく笑って
わたしの手を握った。
「今日はあまえんぼだね」
 見たこともないやさしい笑顔で頭をなでた。
 今日のおねえちゃんはおねえちゃんじゃないみたい。
「ずっといてね」
「だいじょうぶだよ、ちゃんといるからゆっくり休んで」
 やっぱりだ。
 でも、こんなおねえちゃんだったら――
「今日みたいな子でいるんだったら――」
 おねえちゃんと一緒につぶやいた。
「ずっとかぜをひいててもいいなあ」