教育実習で、母校ではない高校に行くことになった。
担当のクラスでの自己紹介が済めば、さっそく投げられる質問。
「せんせー、彼女はぁ?」
答えについては友人から聞いていた。
『いない』と言うと、昔から今まで
付き合ってくれる相手もいないんだと人間性を疑われ、
『いる』というといやらしい質問が根掘り葉掘り来ると。
だからたとえいようがいまいが、その返事は――
「今は、いないですね」
「なんで別れちゃったのー?」
くそう、昔からいなくて今もいないだけのおれに
それを訊くのか。
そこでぐっと悲しみを押し殺してひとこと。
「まあ、人と人との付き合いには、いろいろあるってことですよ」
それから二週間ほどののち、
そんなやりとりなんて自分でも忘れていた日のこと。
「先生、今は彼女いないんだよね?」
放課後にめずらしく声をかけてきた女の子と話していたら、
あまり脈絡もなく訊かれた。
「うん、まあ」
答えると、
「今はいなくても、先生ならきっとすぐいい人が見つかるよ」
そう言ってはにかむような笑顔を見せた。
その顔は希望とやさしさに満ちているようで。
――すぐ見つかるとしたら、そんな考えができる君のほうだよ。
おれは言えない言葉を飲み込んだ。