その日、大学がお休みの晴れた日の午後。
寮の広間でお茶会があった。
出されたお菓子でみんなの注目を集めたのは、
隣の部屋の子が作ったプリン。
とろりと口の中に流れてはひたされた部分を
しあわせで満たしていくような、やわらかでいてしつこくもない、
上品でやさしげな味だった。
それをほほえんで口にする、わたしと同室の彼女。
彼女はいつも物静かな人だった。
一緒の部屋で二年間暮らしてきても、
こうした寮のお茶会のときでも授業のときでも、
いつも奥ゆかしげで控えめで。
薄く笑う以外の顔をすることなんてないんじゃないかと思ってた。
でも。
「このままお店に並んでても絶対売れるよ」
「わたしこんなのが売ってたら買いにいくよ」
賞賛の声が響く中、
「あはは、わたし、お菓子作りは好きだから」
作った子が照れたように答えると――彼女は叫んだ。
「あなたが考えているのはお菓子を作ることだけ。
食べる人の気持ちもお菓子の気持ちも全然わかってない!」
はじめて聞く彼女の悲痛な声。そんな声を出すのにも、
その言葉にも驚いて、その場にいた人の口に
音はまったくなくなった。
「あ、ご、ごめんなさい」
はっと気付いたように顔をふせ、気まずそうに
部屋から駆け出して行くと、部屋の中にささやきが広がる。
「どうしよう、わたしなにか失礼なことしちゃったかな」
青くなる子。
どうしよう、彼女を追っていったほうがいいのかな?
思いながらプリンにスプーンを入れたとき、
大動脈を傷つけて血が噴き出すみたいに、
下からカラメルがあふれ出てきた。
「ん」
苦い。すべてをぶちこわしにするくらい焦げえぐい。
なんで甘いものの中にこんな苦いのを
入れなきゃいけないんだろう。
たくさんの幸せもちょっとの不幸で台無しになるように、
人生の哀愁でも語らせてるつもりなんだろうか。
……と思って気がついた。
彼女の容器を見てみると、底にたまった黒い液体。
「まさかね」
わたしはそっとつぶやいた。