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2006-11-09
ついてる?
「あ〜、なんでこうついてないんだろ」
 電話の向こうで友達がため息をついた。
「今度はなに?」
「くだらない残業で終電逃して、
会社から家の駅までタクシー乗ったんだけどさ。
自転車に乗ろうとしたらパンクさせられてた」
「してた?」
 わたしが訊くと、
「させられてた」
 彼女は言った。
「ほんとだよ? 最初買って乗ってったら
何日かでサドル汚されてさ。なんとか消したら今度は切られて。
カバー買ったらそれはがされて。
しかたなく新しいサドル買ってつけてもらったら
次の日にカバーがかごに入れられてさあ。そ
の後は後ろの光るところ割られて付け直したらもぎとられて。
そして昨日はパンクだよ?」
「うわ……めげそう」
「もー、めげきってるよ。家の物もいろいろ壊れるし、
会社じゃわたしだけ地雷踏むんだよ? あほな電話にあほな仕事。
上司はなんかわたしだけ目の仇にしていろいろ言ってくるし……。
なんでこうついてないんだろ」
 深いため息に、
「憑いてるからじゃない?」
 わたしは言った。
「いっそおはらいでも行ったほうがいいよ」
「え〜。じゃあ、今度何かひどいこと起こったら一緒に行ってよ」
 ……冗談のつもりだったのに。
「うん、いいよ。何か起こったらね」

 そして次の週末。
「おはらい、行こ」
 友達から電話がかかってきた。
 いわしの頭も信心からって言うし、
それで気が晴れるならいいかと初詣のときに厄払いもすると
謳っていた神社を記憶から探して二人で向かった。
 そして鳥居をくぐり、階段をのぼり。
境内に入ろうとしたときのこと。
「申しわけありませんが」
 目の前に立っていた神主さんらしい人が
友達に頭を下げて言った。
「紹介状をお書きしますので、今はお帰り願えませんか」