「やあ、探したよ、母さん」
たくましい若者が、建物に入ろうとする
派手な服の女性に声をかけた。
振り向く女性は怪訝そうな顔で彼を見て、
「だれ?」
「まあ、見た目じゃわかんないだろうな。
でも、冬の寒い日、あんたが病院の保護装置に
捨てて行ったこどもだって言えば思い出すか?」
「え……」
思わず声を漏らす女性。
「なにが赤ん坊用保護装置だ。
中絶や置き去りでこどもが死ぬのを防ぐ?
中絶の痛手から母親を守る? あんなもん、
ていのいいごみ箱じゃないか。赤ん坊は麻酔なく割礼されようと、
元から泣き通しで覚えてない。
死だって死と実感することもなく死んでいくだろう。
おれは、そのほうがよかった。
なのにそれを助けて育てることになんの意味がある?
……長かったよ、今まで。自分が親からごみのように
捨てられたと思いながら生き続けるのはつらかったよ。
それに、あんたを見つけるまでに二十五年もかかったんだ」
青年は言葉を吐き出すと拳を握り、女性を見つめて訴えた。
「なあ、教えてくれ。何を思ってあの日おれを捨てた?
それについてどう思ってるんだよ」
彼女は肩をすくめると、答える。
「もう十人以上も捨ててるし、そんな昔のこと言われたって
正直ぜんっぜん覚えてない」