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2003-07-20
灼熱の想い
「ちょっとここに来なさい」
 パパは言った。

「大事な話があるの」
 ママは言った。

「なあに?」
 わたしは二人の前に行く。

 パパの横でママは渋い顔でわたしを見つめ、
口を開いた。
「あなた、また飛ぼうとしたんですって?」
 ぎくり。心臓がつかまれたように体が跳ねる。
「どうして他の鳥の真似事をするの?」
 嫌そうな口ぶり。そしてパパは。
「……ペンギンに生まれたのがそんなに不服か?」
 深みのある声で、そう言った。

「ちっ、違っ……!」
 わたしは叫ぶ。
「ほかの鳥のまねなんてしてない!」

「じゃあ、なんなの? 
どうして何度言ってもやめてくれないの?」
「だって……」
 やめられない。
どうしてもこれだけはやめたくない。
……どうして? そう訊かれたらわからないけど。

「ペンギンとしての誇りはあるのか?」
「……ある! あるよ!」
 飛ぶ鳥、走る鳥、泳ぐ鳥。
鳥にもいろいろあるけれど、
わたしは泳ぐ鳥として生まれた。
この広く深い海の中、
自由に泳げるペンギンであってよかったと思う。
……でも、そういうことじゃない。
わたしがはばたくのはもっと大事なことなんだ。

 『他の人に恥ずかしいから、そんなことはやめなさい』。
そう言われて、わたしは外ではばたくのをやめた。

 『みっともないからそんなことはやめなさい』。
……一人で練習していたら言われた。
 だからこっそりがんばっていたのに。

今度は『他の鳥のまねごとをするな』なんて。
「わたしがはばたくと、だれかに迷惑がかかるの?」
 わたしはの言葉に、
いぶかしげに見つめるパパとママ。
「するなって言うことはちゃんとやめた。
どこまで行けば気が済むの? 
……わたしが羽ばたけるのは翼があるから。
それが気に入らないなら、わたしの翼をもげばいい」
「なにを言って……?」
 驚く二人。気にせず続けた。

「他の鳥のまねをしてるわけじゃない。
違う鳥になりたいわけじゃない。
……どうしてわかってくれないの?」
「じゃあ、なんなんだ」
「飛べたらいいなと思うけど、
空を飛びたいわけじゃない。
わたしの足が、わたしの羽がうずくから」

 違う生き物でも見るような二人の目。
わたしは目をそらさずに言う。
「わたしは羽ばたいている自分が好き。
見たくないのはパパとママだけなんじゃないの? 
自分が羽ばたかずに来たから、
だからわたしが悔しいんだ」
「いいかげんにしなさい!」
 パパは声を荒げた。

「やだ! 絶対やだ! 
なにを言われたってわたしは羽ばたくのをやめない。
ばかにされたって構わない。理由だっていらない。
ずっと……ずっと言われてきたんだ、
『走れ、はばたけ、手を動かせ』って」
「だれに……?」
 わたしは胸に手をあてる。
「だれでもない。とめられないよ。
……わたしの心が叫ぶから!」