「ちょっとここに来なさい」
パパは言った。
「大事な話があるの」
ママは言った。
「なあに?」
わたしは二人の前に行く。
パパの横でママは渋い顔でわたしを見つめ、
口を開いた。
「あなた、また飛ぼうとしたんですって?」
ぎくり。心臓がつかまれたように体が跳ねる。
「どうして他の鳥の真似事をするの?」
嫌そうな口ぶり。そしてパパは。
「……ペンギンに生まれたのがそんなに不服か?」
深みのある声で、そう言った。
「ちっ、違っ……!」
わたしは叫ぶ。
「ほかの鳥のまねなんてしてない!」
「じゃあ、なんなの?
どうして何度言ってもやめてくれないの?」
「だって……」
やめられない。
どうしてもこれだけはやめたくない。
……どうして? そう訊かれたらわからないけど。
「ペンギンとしての誇りはあるのか?」
「……ある! あるよ!」
飛ぶ鳥、走る鳥、泳ぐ鳥。
鳥にもいろいろあるけれど、
わたしは泳ぐ鳥として生まれた。
この広く深い海の中、
自由に泳げるペンギンであってよかったと思う。
……でも、そういうことじゃない。
わたしがはばたくのはもっと大事なことなんだ。
『他の人に恥ずかしいから、そんなことはやめなさい』。
そう言われて、わたしは外ではばたくのをやめた。
『みっともないからそんなことはやめなさい』。
……一人で練習していたら言われた。
だからこっそりがんばっていたのに。
今度は『他の鳥のまねごとをするな』なんて。
「わたしがはばたくと、だれかに迷惑がかかるの?」
わたしはの言葉に、
いぶかしげに見つめるパパとママ。
「するなって言うことはちゃんとやめた。
どこまで行けば気が済むの?
……わたしが羽ばたけるのは翼があるから。
それが気に入らないなら、わたしの翼をもげばいい」
「なにを言って……?」
驚く二人。気にせず続けた。
「他の鳥のまねをしてるわけじゃない。
違う鳥になりたいわけじゃない。
……どうしてわかってくれないの?」
「じゃあ、なんなんだ」
「飛べたらいいなと思うけど、
空を飛びたいわけじゃない。
わたしの足が、わたしの羽がうずくから」
違う生き物でも見るような二人の目。
わたしは目をそらさずに言う。
「わたしは羽ばたいている自分が好き。
見たくないのはパパとママだけなんじゃないの?
自分が羽ばたかずに来たから、
だからわたしが悔しいんだ」
「いいかげんにしなさい!」
パパは声を荒げた。
「やだ! 絶対やだ!
なにを言われたってわたしは羽ばたくのをやめない。
ばかにされたって構わない。理由だっていらない。
ずっと……ずっと言われてきたんだ、
『走れ、はばたけ、手を動かせ』って」
「だれに……?」
わたしは胸に手をあてる。
「だれでもない。とめられないよ。
……わたしの心が叫ぶから!」