わたしは住み込みでメイドの仕事をしています。
奥様も旦那様もいいお方……
お金をくださるという点でいいお方で、
わたしはなんとか貴族様の
ごきげんを損ねないように
毎日の仕事をこなしていました。
ただ、その中で楽しみなのは
お嬢さまのお相手です。
どんなこどもでも、
こどものうちはまだかわいいもの。
しかもなぜかお嬢さまはわたしを気に入って、
寝入りに本を読んでとせがまれるのです。
お嬢さまは、顔は、かわいいお方です。
喋らずにただかわいくあるのは
寝ているときだけなので、
寝かしつけるこの時間を楽しみにしていました。
そして今日も、本を持って
お嬢さまの寝室に向かいます。
部屋の中、大きなベッドの真ん中に
小さく横になるお嬢さまの枕元。
灯りを小さくして椅子に腰掛けると、
「今日はなんて本?」
こども独特の愛らしい舌足らずな声で
お嬢さまが訊ねます。
「はい。今日は……」
本棚から適当に抜いた本の表紙を見て、
「『皇帝の新しい服』、ですね。では、読みますよ」
わたしは本を開きます。
お話は一人の皇帝のものでした。
おしゃれな皇帝の前に、
めずらしい布を持ってきた職人が言います。
『これはバカには見えない布です』と。
もちろんそれは嘘で布などなかったのですが、
皇帝は見えないとは言い出せずに
服を作ってもらうことにしました。
そして結果、皇帝はその服を着たつもりで
裸のまま町を歩いてしまうのです。
「……皇帝、ばかだよね」
話が終わるとお嬢さまが言いました。
「そうですね」
わたしはうなづきます。
せめて、見えないものは見えないと言える
真摯な態度を持っていればよかったのに。
でもお嬢さまは、
「せめてバカにしか見えない布じゃないと、
平民の前になんか出られないよね」
旦那さまのように にやりと笑われました。
……この日を最後に、わたしはメイド服を脱ぐことにしました。