0012
2003-07-23
白い浦島太郎
 ある日、海岸を歩いているとき。
サルの群れが亀に縄をつけ、
陸に引きずり揚げようとしているのを見て、
彼は自分の目を疑った。

「なにをやっている!」
 いきなり語気も荒く駆け寄る彼に、
サル達は不思議そうな顔をする。
「なにって、食べるのさ」
「ばかか!」
 彼は怒鳴った。
「こんな美しい生き物を食べるだと? 
なにを考えてるんだ! 
かわいそうだろ、放してやれよ!」
 そんな彼に、サルはあきれた顔で言う。
「君には関係ないだろう? ほっといてくれ」

 その言葉を聞いて、彼は。
「……おい、おまえら。おれを怒らせるなよ」
 低く重い声で言った。
口には薄い笑みを浮かべて。

「なんならお前らみなごろしにするか? 
それともお前らの住んでるところを高い柵で囲ってやろうか?」
 その目を見てサルたちは震え上がった。
彼の目は決して冗談を言ってはいなかったから。
そして、彼が本当にそれをできる人間だと思い出したから。
「わ、わかったよ」
 サルたちは怯えた様子で逃げていき、
彼はそれを満足げな顔で見送る。

「よかったなあ、亀。
バカなサルどもから、このおれが守ってやったぞ」
 彼は亀の頭を優しくなでると、
「おい」
 後ろに向けて呼びかけた。
「はい、ご主人さま」
 彼の奴隷が歩み出る。
「この亀の手当てをしろ。
それが済んだら海に返してやれよ」
 ぞんざいな彼の言葉に、奴隷はうやうやしく頭を下げた。
「はい、わかりました。ご主人さま」
 彼はほくそ笑む。
善行を一つ積んだと思って満ち足りた気分だったのだ。