ある日、海岸を歩いているとき。
サルの群れが亀に縄をつけ、
陸に引きずり揚げようとしているのを見て、
彼は自分の目を疑った。
「なにをやっている!」
いきなり語気も荒く駆け寄る彼に、
サル達は不思議そうな顔をする。
「なにって、食べるのさ」
「ばかか!」
彼は怒鳴った。
「こんな美しい生き物を食べるだと?
なにを考えてるんだ!
かわいそうだろ、放してやれよ!」
そんな彼に、サルはあきれた顔で言う。
「君には関係ないだろう? ほっといてくれ」
その言葉を聞いて、彼は。
「……おい、おまえら。おれを怒らせるなよ」
低く重い声で言った。
口には薄い笑みを浮かべて。
「なんならお前らみなごろしにするか?
それともお前らの住んでるところを高い柵で囲ってやろうか?」
その目を見てサルたちは震え上がった。
彼の目は決して冗談を言ってはいなかったから。
そして、彼が本当にそれをできる人間だと思い出したから。
「わ、わかったよ」
サルたちは怯えた様子で逃げていき、
彼はそれを満足げな顔で見送る。
「よかったなあ、亀。
バカなサルどもから、このおれが守ってやったぞ」
彼は亀の頭を優しくなでると、
「おい」
後ろに向けて呼びかけた。
「はい、ご主人さま」
彼の奴隷が歩み出る。
「この亀の手当てをしろ。
それが済んだら海に返してやれよ」
ぞんざいな彼の言葉に、奴隷はうやうやしく頭を下げた。
「はい、わかりました。ご主人さま」
彼はほくそ笑む。
善行を一つ積んだと思って満ち足りた気分だったのだ。