クリスマスには間に合わせたくて、
残業のある日でも
かならず毛糸と針を手に取った。
一針一針……というほどではないけれど。
せいいっぱいの思いを込めて。
かれが好きだと言っていた色。
できたら喜んでくれるかな?
いちおう手先は不器用なほうじゃないし、
マフラーだって何回か編んだことがある。
こんなに緊張したのも、
こんなに楽しいのも初めてだけど。
ちゃんと編みあがったら、
喜んで……くれるよね?
「おっ、マフラーだ」
紙袋を開けた彼が声を上げる。
「もしかして、手編み?」
「……うん」
「へええ、すごい」
びっくりした笑顔で
わたしのあげたマフラーをさする彼。
まいてくれるかと思ったら、
「本当にありがとう」
そういって、そっと袋に戻してしまった。
それから、一日、二日。
会ってもいつもとおなじ格好。
……どうして使ってくれないの?
本当は気に入らなかった?
あのときは、わたしを傷つけないために
喜ぶふりをしてくれただけ?
売ってるものみたいには目をそろえて編めないし、
毛糸も好きな色じゃなかったのかも……。
なんだかいままでのことが悲しくて、
一人浮かれていた自分がなんだかみじめで。
一週間後、泣きたくなるのをこらえながら、
わたしはなんとか口にした。
「ね、あの、この前の……。いらなかったら、捨ててね」
*
クリスマスイブの日。
彼女が差し出した飾りのない紙袋から出てきたのは、
マフラーだった。
それもそこらで売っているような
どこか澄ました感じではない、
なんとなく温かみのある形。
「もしかして、手編み?」
たずねると、ちょっと照れくさそうに眉を寄せ、
「……うん」
ちいさくはにかんだ。
「へええ、すごい」
どうやってこういうものができあがるかくらい、
おれだって知ってる。
たかが一本の毛糸を金属の棒で
気の遠くなるような時間と手間をかけて
編み上げていくはずだ。
こんな長さにするのには、
どれだけ時間がかかるんだろう。
「本当にありがとう」
いくら言ってもいい足りないほどの感謝で、
汚れないようにしっかりと袋にしまった。
家に帰りながら、がまんできなくて何度も開けてみる。
ふかふかの手触り。それがなぜかすごくうれしい。
最近じゃ仕事の一時間で、
そこらへんでマフラーなんて買えるはず。
それを、わざわざ自分の時間をつぶしてまで
一本の紐から作っていくなんて
どんな気持ちだったんだろう。
これを……こんなすごいものを
おれのために作ったって?
思わず叫びだしたくなる興奮。
見てるだけでなんだかあったかい気持ちになる。
思わず顔をうずめてみると、彼女のにおい、
ぬくもりが残っている気がした。
大切に大切に、幸せにひたっていたある日。
深刻な顔をして、彼女はいった。
「ね、あの、この前の……。いらなかったら、捨ててね」