0048
2005-12-28
流しそうめん
「おれはね、流しそうめんをやってるわけよ」
 とある居酒屋、
後ろのほうで若い男の声が聞こえる。
「ほんとは流さずにそのまま食わせてやりたい。
でも流せって言うから流さなきゃいけない」
 タン。コップを乱暴にテーブルに置いたらしい音。

「でも樋はやたら長いし、水は少ない。
途中に分岐や抵抗ばっかりあって。
一玉流したって下まで行くのは
一本二本しかないんだよ。……なあ、わかるか?」

 もうすっかりできあがっているようで、
周りのことなど気にせずこぼしている。
「なあ、わかるか? 
なんで意味のないところでひっかかってるんだよ。
その割に、お偉いは客のことを考えろって。
……一番考えてないのは誰なんだよ。
ほんとに客のこと思うなら、樋を短くしろよ。
すんなり流れるように手順を整えろよ。
途中のくだらないところで
なくなるものが多すぎなんだって」

「おいおい、何の話だよ。おまえ、ただの営業だろ?」
 一緒に飲んでいるらしい男の声。

 ――え?

 会話に耳を澄ませると、
「んあ?」
 酔った男は声を上げ、にくにくしげにつぶやいた。
「おれの『仕事』さ」