0051
2006-01-05
さらに考えない人
「いいか、お客様の満足度を高めるためには
どうすべきか、待ってるだけじゃなくて
自分の頭で考えて行動するんだ。
もしわからないことがあったら、
失敗する前に訊きなさい」
 と、新人研修で、ハゲかけのおっさんが言った。

 それから数日で研修は終わり、
疑問に思いはじめたことを訊いてみた。
「あの〜、すいません」
「うん?」
「朝十時までの電話には、
『おはようございます』で返すんですよね?」
「うん、そうなってるな」
「朝十時までにおはようと言うことは、
本当に顧客満足につながっているんですか?」
 なにを言っているのかと眉をしかめるハゲに、
おれは続ける。

「それに、十時を過ぎておはようというと、
お客さんは不愉快になるんですか? 
なぜおはようだけ言って、
こんにちは、こんばんは は言わないんですか?」

 するとそいつはあきれたような、
不愉快そうな顔になって言った。
「くだらないこと考えてる間に、
マニュアルにあることだけを
ちゃんと言えるようにしろ。
不満があるならおまえがトップになったときにでも
変えればいいんだ」
 そう言われてはさすがに むっとくる。

 そこで応対資料をひたすら読み返し、
揚げ足を取れそうな部分を発見した。
「ここの、最後の名前確認ですけど」
 おれの顔を映しそうな頭に向かって声をかけると、
その下から顔が現れる。
「これ、資料どおり
『もう一度お名前頂戴してよろしいですか?』って
言っていいんですか?」

 するとそいつは一瞬驚いた顔をして資料をみなおし、
したり顔で口を開いた。
「この資料もだいぶ古くなってるからなあ。
書いてあることを丸呑みするんじゃなく、
疑ってみることも大切だな」
 瞬間、おれは紙の束を床に投げつけた。