0052
2006-01-05
男の子・女の子
 次の授業の準備で教室を飛び出したら……
突然目の前が暗くなった。

「うわっぷ」
 顔に衝撃。鼻から何かにぶつかったみたい。
 顔を上げると上のほうに男子の顔。
胸に抱きかかえられるような形。
「うわあ、ごめんね」
 どうせ知らない仲でもないし。
変な顔をしてる相手に軽く謝って駆け出した。

 そのときからか、その前からかはわからないけど、
なんだか態度が変になった。
 いつも普通に話したり、ばかやりあったりしたのに。
ふと視線が合うとわざわざ目をそらしたり、
話しかけてるのに顔を背けて短く一言二言で返したり。

 だんだんいらいらしてきたわたしは、
放課後に帰りかける前に立ちふさがった。
「ねえ、なにそれ」
「なんだよ」
 目を見て訊いてるのに、
やっぱり顔をそらしてしまう。

「わたしなんかした? 
なんでいきなりそんな風になっちゃったの?」
「なんでって、そりゃ……」
 ふくれた顔でちらりとわたしを見ると、
すぐに目をそらして口ごもってしまった。
「そういうの気分よくない。
わたしがなんかしたなら言ってよ」
「…………」
 ぼそっとつぶやく言葉。

「え?」
 ききかえすと、
「してないよ」
 しぶしぶ、という風に口にする。

「じゃあ、なんなの? ちゃんとこっち見てよ」
 言うと、ようやくわたしのほうに顔を向けた。
でも目は一瞬あっただけですぐ逃げようとする。
「おまえなんて……」
 つぶやくように。
「おまえなんて男みたいなもんだと思ってたのにさ」

 なんですとー!?

 叫びたくなるのをぐっとがまん。
にらんだまま続きを待っていると
困ったように眉を寄せて、続けた。
「なんか……やわらかいし、いい匂いするんだよな」
「え? な、なに……?」
 思いもしなかった言葉に、かーっと頭まで熱くなって。
恥ずかしさで合わせられない目をそらし、
わたしがようやく口にできたのは、これだけ。

「も、もう、バカ〜!」