次の授業の準備で教室を飛び出したら……
突然目の前が暗くなった。
「うわっぷ」
顔に衝撃。鼻から何かにぶつかったみたい。
顔を上げると上のほうに男子の顔。
胸に抱きかかえられるような形。
「うわあ、ごめんね」
どうせ知らない仲でもないし。
変な顔をしてる相手に軽く謝って駆け出した。
そのときからか、その前からかはわからないけど、
なんだか態度が変になった。
いつも普通に話したり、ばかやりあったりしたのに。
ふと視線が合うとわざわざ目をそらしたり、
話しかけてるのに顔を背けて短く一言二言で返したり。
だんだんいらいらしてきたわたしは、
放課後に帰りかける前に立ちふさがった。
「ねえ、なにそれ」
「なんだよ」
目を見て訊いてるのに、
やっぱり顔をそらしてしまう。
「わたしなんかした?
なんでいきなりそんな風になっちゃったの?」
「なんでって、そりゃ……」
ふくれた顔でちらりとわたしを見ると、
すぐに目をそらして口ごもってしまった。
「そういうの気分よくない。
わたしがなんかしたなら言ってよ」
「…………」
ぼそっとつぶやく言葉。
「え?」
ききかえすと、
「してないよ」
しぶしぶ、という風に口にする。
「じゃあ、なんなの? ちゃんとこっち見てよ」
言うと、ようやくわたしのほうに顔を向けた。
でも目は一瞬あっただけですぐ逃げようとする。
「おまえなんて……」
つぶやくように。
「おまえなんて男みたいなもんだと思ってたのにさ」
なんですとー!?
叫びたくなるのをぐっとがまん。
にらんだまま続きを待っていると
困ったように眉を寄せて、続けた。
「なんか……やわらかいし、いい匂いするんだよな」
「え? な、なに……?」
思いもしなかった言葉に、かーっと頭まで熱くなって。
恥ずかしさで合わせられない目をそらし、
わたしがようやく口にできたのは、これだけ。
「も、もう、バカ〜!」