0054
2006-01-10
人も憎む
 今朝、電車に乗ろうとすると、
どこかでいい騒ぐ声が聞こえてきた。

 遠巻きにとりかこむ人の輪の真ん中、
ホームに寝そべるサラリーマン風の男性と、
その上で腕を押さえる大学生風の男性。
『痴漢だって……』
 そんなささやき声がきこえる。

「なんだよ、離せよ。できごころなんだ」
 押さえつけられている男性が叫んだ。
「こんなことになるなんて思いもよらなかったし、
善悪の判断もついてなかったんだよ。
あのときは意識もはっきりしてなかった。
責任なんて取れる状態じゃなかったんだ!」

「たしかにそうだな」
 わたしはうなづき、
這いつくばる男はうれしそうに顔を上げた。
「でも、犯罪者なんてみんなそうだろ」