彼女がうちの台所に立っている。
お湯をわかすくらいだった場所に似つかわしくない姿。
初めての手料理に否が応にも期待が高まる。
「はい、どうぞ」
料理を並べた彼女が席に着く。
「変な味したら言ってね。作りなおすから」
眉を寄せてはにかみかむけれど。
おれだってせっかく作ってくれたものに
けちをつけるほど不人情な人間じゃないつもりだ。
どんなものだって、人が食べられないものになることはあるまい。
「じゃ、いただきます」
「はーい」
……ばかだった。洗剤の味がするよ、これ!
なにをどうやったらこんな人工的な
とげとげしい味のものができるんだ。
「変な味、しない?」
そっとたずねる彼女。
挑戦か? これはおれへの挑戦なのか?
「だいじょうぶ。こんなもんだろ」
する、とは言えないおれの悲しさ。
だが、どこぞの大臣のようにわざとらしく飲みきって、
おかわりしてみる。これがおれの思いやり。
愛を試されるなら応えてやるさ!
そんなおれの様子を見ていた彼女は、
ほっとほほえんで自分の前のおわんに口をつけた。
「う……」
渋い顔。
「やっぱり洗剤の味するよ」