0111
2006-02-03
挑戦
 彼女がうちの台所に立っている。
お湯をわかすくらいだった場所に似つかわしくない姿。
 初めての手料理に否が応にも期待が高まる。

「はい、どうぞ」
 料理を並べた彼女が席に着く。
「変な味したら言ってね。作りなおすから」
 眉を寄せてはにかみかむけれど。
おれだってせっかく作ってくれたものに
けちをつけるほど不人情な人間じゃないつもりだ。
どんなものだって、人が食べられないものになることはあるまい。
「じゃ、いただきます」
「はーい」

 ……ばかだった。洗剤の味がするよ、これ!

 なにをどうやったらこんな人工的な
とげとげしい味のものができるんだ。
「変な味、しない?」
 そっとたずねる彼女。
 挑戦か? これはおれへの挑戦なのか?
「だいじょうぶ。こんなもんだろ」
 する、とは言えないおれの悲しさ。
 だが、どこぞの大臣のようにわざとらしく飲みきって、
おかわりしてみる。これがおれの思いやり。
愛を試されるなら応えてやるさ!

 そんなおれの様子を見ていた彼女は、
ほっとほほえんで自分の前のおわんに口をつけた。
「う……」
 渋い顔。
「やっぱり洗剤の味するよ」