0126
2006-02-09
いいぶん
「……えー、であるからして、
えー、この点について規制できるようになったということで、
えー、これは意義深いものになったわけですね」
 あらぶる鬼をもむりやり寝かせるような、教授の言葉。
 うとうとと右から左へ流していると、
激しく携帯電話の鳴る音がした。

 あーあ、なにやってんだよ。
こうなるとあのじじい……
「えー、どこです。携帯なんか鳴らしてるのは!」
 あ〜、やっぱり。
「でていきなさい」
 静まり返る教室。だれも動こうとはしない。
「いないわけないでしょう。出て行きなさい」
 仕方なく、といった調子で一人の女が立ち上がり、
ドアへと向かった。
 教室にいるだれもがその様子を息を殺して見ていた。

「まったく」
 ぼぶっとマイクを叩くため息まじりに教授がつぶやく。
「私語は慎みなさい、携帯電話はやめなさい、
言ってわかったかと思えば静かなのはお昼寝中。
幼稚園児の集まりですな。
昔の若者はこうじゃなかった。勉強する気概があったのに」
 むかっとして、
「昔の教師も、もっと教える気概があったと思いますがね」
 思わずおれは叫んでいた。

「だれですか。どういうことですか」
 あたりを見回す教授に、おれは立ち上がる。
「先生は、教える勉強ってしたことあります? 
抑揚もないしゃべりで自分の専門だけを、
自分にだけわかりやすいようにだらだら流して。
そんなのでだれが興味を持ちます? 
あなたは教えを授けるなんて肩書きに値しない、
ただの研究者です。それで教師を気取るなら、
教えるということをまじめに学んでいる教師に失礼です」

 どっ、と音を立てて教室がわいた。
あたりから拍手や歓声があがった。
 あのじいさんだけにさぞかし怒るだろうと思っていると、
「うん、若者ですな」
 にっと笑って満足そうにうなづいた。