「……えー、であるからして、
えー、この点について規制できるようになったということで、
えー、これは意義深いものになったわけですね」
あらぶる鬼をもむりやり寝かせるような、教授の言葉。
うとうとと右から左へ流していると、
激しく携帯電話の鳴る音がした。
あーあ、なにやってんだよ。
こうなるとあのじじい……
「えー、どこです。携帯なんか鳴らしてるのは!」
あ〜、やっぱり。
「でていきなさい」
静まり返る教室。だれも動こうとはしない。
「いないわけないでしょう。出て行きなさい」
仕方なく、といった調子で一人の女が立ち上がり、
ドアへと向かった。
教室にいるだれもがその様子を息を殺して見ていた。
「まったく」
ぼぶっとマイクを叩くため息まじりに教授がつぶやく。
「私語は慎みなさい、携帯電話はやめなさい、
言ってわかったかと思えば静かなのはお昼寝中。
幼稚園児の集まりですな。
昔の若者はこうじゃなかった。勉強する気概があったのに」
むかっとして、
「昔の教師も、もっと教える気概があったと思いますがね」
思わずおれは叫んでいた。
「だれですか。どういうことですか」
あたりを見回す教授に、おれは立ち上がる。
「先生は、教える勉強ってしたことあります?
抑揚もないしゃべりで自分の専門だけを、
自分にだけわかりやすいようにだらだら流して。
そんなのでだれが興味を持ちます?
あなたは教えを授けるなんて肩書きに値しない、
ただの研究者です。それで教師を気取るなら、
教えるということをまじめに学んでいる教師に失礼です」
どっ、と音を立てて教室がわいた。
あたりから拍手や歓声があがった。
あのじいさんだけにさぞかし怒るだろうと思っていると、
「うん、若者ですな」
にっと笑って満足そうにうなづいた。