0128
2006-02-09
責任・無責任
「ねえ、募金、してもいい?」
 テレビ画面から、見やすく構成された
貧しい国の悲惨な現実が消えると、妻が訊ねた。
「うん? なんで?」
「うちにはこどももいないし、
その分他のこどもたちの役にでも立てたらと思って」
「募金して、本当に役に立つと思う?」
「え?」

「今、千人生まれて百人生き延びたこどもが
おとなになってるとしよう。
そこで死ぬはずだった九百人のこどものうち、
百人助けると……。
二千人が生まれて二百人のこどもが生き延びて、
千八百人のこどもが死ぬ世界になるぞ」
「どうしてそういう言いかたするの? 
じゃあ、今死んで行くこどもたちを前にして、
将来のために今死んでって言えるの?」
「そりゃ目の前にしたら言えないさ。
でも、大人は言うわけだ。
『わたしこども作る人、あなたこども救う人』。
これって、あんまり無責任すぎると思わない?」
「それは……そうだけど」

「こどもを生むなら、
こどもを生める環境で生んでほしい。
こどもを育てる金も自信も環境もないのに
生むほうがどうかしてる。
うちにこどもがいないのはなぜだと思うんだ」
「え? それはあなたに問題が……って、え? もしかして?」
「うん、あれはうそだ」