0151
2006-02-16
いつもの。
 今日はようやく付き合える事になった彼女とのデート。
 今日のために何回も計画を練り直したし、
よさそうな店も調べた。
「なんかのど渇いたね」
 渋いコーヒー屋のそばでわざとらしく言う。
「どこかで何か、飲んでいこうか?」
 こくん、とうなづく彼女。
 待ってましたとコーヒー屋のドアを開くと、
「いらっしゃいませ」
 落ちついた声を出すのは、店のマスター。
内装は軽く古さを出し、どこか懐かしい気にさせる。
凝ってはいるけどさりげなく、なかなか好きな店だ。
「いいお店だね」
 そっと彼女が言う。なかなかの好印象だ。
 ならば、ここでいいところを見せなけりゃ。

「じゃあ、いつものお願いします」
 いつも安いコーヒーしか頼んでないが、ぼちぼち来てるし、
きっとおれのことをわかってくれるはず……!
 祈りながらマスターを見ると軽くほほえみ、
「はい。いつもの、特製水出しブレンドですね」
 常連客に対するように注文を受けてくれた。

 ……って、待て。なんだそれ。聞いたことないぞ。

 平常を装いながら横目でメニューをなめまわすようになぞると、
一番下にその名があった。しかもそれだけ値段が他の倍近い。
 このオヤジ、涼しい顔してなんてことしやがる……!
 だがマスターはおれに気にせず、彼女に声をかけた。
「お嬢さん、コーヒーが苦手でなければ、
こちらの方と同じものはいかがでしょうか?」