今日はようやく付き合える事になった彼女とのデート。
今日のために何回も計画を練り直したし、
よさそうな店も調べた。
「なんかのど渇いたね」
渋いコーヒー屋のそばでわざとらしく言う。
「どこかで何か、飲んでいこうか?」
こくん、とうなづく彼女。
待ってましたとコーヒー屋のドアを開くと、
「いらっしゃいませ」
落ちついた声を出すのは、店のマスター。
内装は軽く古さを出し、どこか懐かしい気にさせる。
凝ってはいるけどさりげなく、なかなか好きな店だ。
「いいお店だね」
そっと彼女が言う。なかなかの好印象だ。
ならば、ここでいいところを見せなけりゃ。
「じゃあ、いつものお願いします」
いつも安いコーヒーしか頼んでないが、ぼちぼち来てるし、
きっとおれのことをわかってくれるはず……!
祈りながらマスターを見ると軽くほほえみ、
「はい。いつもの、特製水出しブレンドですね」
常連客に対するように注文を受けてくれた。
……って、待て。なんだそれ。聞いたことないぞ。
平常を装いながら横目でメニューをなめまわすようになぞると、
一番下にその名があった。しかもそれだけ値段が他の倍近い。
このオヤジ、涼しい顔してなんてことしやがる……!
だがマスターはおれに気にせず、彼女に声をかけた。
「お嬢さん、コーヒーが苦手でなければ、
こちらの方と同じものはいかがでしょうか?」