「なあ、昨日のアレ、見たか?」
興奮冷めやらぬ様子で同僚が言った。
「なんの話だ?」
「オリンピックだよ、オリンピック。
すごかったなあ〜。感動したよ」
「へえ」
おれの返事に むっとした顔をする。
「なんだよ、なんでそう無関心なんだ?
どっかおかしいんじゃないか?」
今度むっとするのはおれだ。
「よし、なら次の休みにオリンピックにつれてってやるよ」
そして次の休み。
場末の薄汚れた建物の地下に、友人を連れて行った。
「なんだよ、ここ」
不安そうにあたりを見回すそいつに、
「いわゆるドッグレースってやつさ。
この日のために鍛えに鍛えぬいた犬を断食させ、
えさに一番早く食いついたものだけが食い物にありつける」
一段低くなったコースを囲む観客席に、
その他薄汚れた男たちに並んで腰を下ろした。
「ほら、はじまるぞ」
飼い主に連れてこられ、
スタートも待てないように
よだれをたらしながら暴れる犬たち。
部屋も異様な熱気に包まれていく。
「ゴー!」
合図係の号令で、いっせいに肉を目指して走る犬。
勝負はあっという間だった。
「ほら、見ろ」
どっと沸く歓声。
「よだれをだらだら撒き散らしながら、
目を血走らせて自分自身の欲のためだけに
がっついて走ったあの犬が金メダルだ」
おれは友人の目を見て訊ねる。
「どうだ、感動したろ?」