「〜〜〜だけど」
電話口の相手の不愉快そうな中年の声。
……どこの、だれ?
「お宅に注文したアレ、まだ届かないし、
いつ来るかの電話も来ないんだけど」
「それは申し訳ありません」
とりあえず謝りながら、
「状態を確認いたしたいと思いますので、
御社名とお電話番号をお教え願いますか?」
「なんで」
はい?
「さっき言ったじゃない。一度言った事をまた言わせるわけ?」
「では、お電話番号を……」
「だから、電話番号だの住所だの。
こっちはわざわざ登録してるんだよ」
「はあ、申し訳ありません。
では確認いたしますので少々お待ちいただけますか?」
「…………」
返らない反応。
「ではお待ちください」
保留ボタンを押して、なんとなく耳に残る会社名を頼りに、
文字をあてはめて調べていく。けれど、見つからない。
見つかるわけもない。
そのうちに、保留時間終了のブザーが鳴った。
「あの、申しわけありませんが、お時間かかりそうですので
折り返しお電話差し上げてもよろしいでしょうか?」
「はあ?」
いっそう不機嫌な声。
「こっちはあんたのところのせいで遅れて急いでるってのに、
まだ待たせるわけ? しかもすぐ調べられないとか、
どうなってるんだか。ずいぶんお偉い商売だな」
ばかにするような冷たい笑い。
「それでは折り……」
言いかけたところで、受話器を叩きつけたような音とともに
電話が切れた。
おでこに、背中に。冷や汗がじっとりと流れているのに
ようやく気がついた。
「……という電話があったんですけど」
上司に今の電話を話すと、苦笑い。
「ああ〜、たぶんあそこだな。どれ」
それだけでわかったのか調べ始めると、すぐに。
「ああ、うん。今日の朝一で
配達会社から配送済み案内が来てるな。
違う人が受け取ったりしたんだろ」
と、あきれたように軽く笑った。
「ちょっと、お茶入れてきます」
自分のカップを手にして、廊下へ。
ドアが閉まると、持つ手がぶるぶると震えた。
あんな電話をかけて……自分たちの手違い?
なんなの、あれ。あれが人間としてまともな態度?
「……っ、この!」
体の底から噴きあがる衝動に、
わたしはコップを叩きつけていた。
床に当たって重い音を立てながら飛び散る破片。
「なんで……この……!」
大きいものを見つけては、また廊下に叩きつけていく。
それなりに気に入っていたカップだったのに。
どうしても止めることはできなかった。
壊れてしまったカップ。傷ついてしまった廊下。
でも、きっと本当に壊れたのは、