0235
2006-03-14
黒いバレンタイン
 〜事件編〜

 二月十四日。男子校に通うおれには関係なく
いつものように一日が過ぎるはずだった。
 だが、朝。玄関で友人と出くわし、
教室前のロッカーを開けたとき……
友人のところから、派手派手しい色の包みが落ちてきた。
 二人固まること数秒。

「ぐわぁ〜! ホモチョコ発見!」
 思わず叫んだおれを止めようとするが、もう遅い。
教室の中にいた連中や廊下を歩いていた連中が回りを囲む。
「犯人はこの中にいる!」
 おれは叫んだ。
「な、なんだよ。この中のだれだって?」
「いや、この校舎内」
 周りからも深いため息。
「まてよ。だれか女が入れていったかも知れないだろ」
 友人は言うが、おれの推理が冴え渡る。
「いや……それはないな。
手わたしもせずにロッカーに入れておきたいという
つつましやかな子なら、そもそもこんな
入っただけで妊娠しそうな、不愉快にくさいだけの場所に
潜入するわけないだろう。
しかもおまえのロッカーをピンポイントで知ってるとなれば、
これは内部の犯行だ!」

 ざわ……ざわ……ホモ……胸毛……。
 そんなざわめきがきこえる。

「自作自演なんじゃないのか?」
 周りからのつっこみに、友人は必死に首を振った。
「うん、それはないな。こいつは朝に弱い。
しかもわざわざ自分のロッカーに入れてから
こっそり外に出てだれかを待つなんてこまごましたこと、
やれるだけの気配りはできない」
「じゃあ、だれなんだよ」
 当然の質問だ。
「だが、推理をすすめるための手がかりが足りない。
その包みの中を見てみて、いいか?」
 友人は汚いもののように包みをつまむと、おれに押し付けた。
「いいよ、やるよ。どうにかしてくれよ」
「ふむ……」
 ラッピングの裏のテープを何箇所かはがし、中身とご対面。
「むーん。市販の板チョコだな。しかも安い」
「毒でも入ってんじゃないのか?」
 投げかけられる声に、包装紙を剥がす。
「いや……たぶん、それはないだろう」
 一応まわりに穴が開いてないことを確認して、一口。
 とりたててうまいというわけではないが、そこそこだ。

 そしておれの推理は確信へと変わった。
「犯人は、この近くにいる!」
 ごくり、とつばを飲む音がきこえた気がした。
「犯人は…………」

 〜解決編〜

「犯人は……一時間後」
「こらー、お菓子なんか持ってきてんじゃない」
 人ゴミの向こうから、担任が来た。
「って、おいおい、スキモノだな」
 苦笑いする担任になりゆきを軽く説明し、
チョコはおれが預かることになっての朝学活。
 自分の席につきながら、おれは隣の席、
別の友人の肩を叩いてささやいた。
「チョコ、ごちそうさん」
 驚いた目。
「な、なんで……」
 そっと言ってくる。

「わかるさ。こんなことがあれば
真っ先にかけつけてくるお前が、席についたまま」
「それだけでか」
「いや、まだある。バレンタインシーズンともなれば、
男がチョコを買うだけで哀れな目で見られるのに、
バレンタイン包装までしてもらえる奴はそういない。
しかも、一番安いチョコだぞ? 
女が義理チョコにそんな小細工をするとも思えない。
とすると、ネタとしてチョコを買うことを
思いついたはいいものの、ネタにそんな金は出したくない。
そこで自然に安いチョコにしたという流れが考えられる。
そしてそんなことを考え、実際に行動に移せるバカといえば……
妹がいるおまえだっ!」
 がっくりとうなだれる友人。

「『おにーちゃん、自分のチョコ買うなんて、何考えてんの? 
はいはい、冗談冗談ね、わかったわかった』」
「な、なんで知ってんだよ」
「なあに、簡単な推理だよ、きみぃ。
妹にまで憐れな目で見られるとは悲しい奴だ」
 すると友人は微妙な表情をして、言った。
「おまえ……その頭を勉強か何かに活かせよ」
「それは言わないお約束」

 〜完〜