0236
2006-03-14
甘いバレンタイン
 その日の朝、わたしがいつものように教室に行くと、
中の空気はどこかそわそわ。
同じ学校に男子がいなくても、やっぱり今日は特別。

 席についてかばんの中身を移そうとすると、
机の中に何かあるのに気づいた。
「あれ、これ……」
 中にあったのはかわいい包み。
でも、どこにも差し出し人の名前はなくて。
「これは、事件ですよ」
 気分を出してつぶやくと、
「ああ、それ? 朝、髪これくらいの、背がこれくらいの、
うつむき加減の子が渡してってもってきたよ」
 友達が言った。
 うーん、そうすると……委員会の方じゃなくて、
クラブのほう?

「あ、ちょっといいかな?」
 心当たりのクラスをのぞきこんで声をかけると、
周りから小さな歓声。
 お目当ての子も気づいてやってきた。
「金色のかわいいリボンの包み、あなた?」
 訊ねると、柔らかな黒髪を揺らしてうつむき、
「あ……ごめんなさい。やっぱり、迷惑でした?」
「なぁに言ってるの。そんなことないよ。はい、これ」
「え?」
 差し出すのは昨日作ったチョコ。

「おかえし。返せなかったらさみしいでしょ?」
 あんまり得意じゃないからただ溶かして形を変えただけだけど。
「わ、ありがとうございます」
 嬉しそうな顔をして受け取ってくれると、わたしだって嬉しい。
「あとね」
 ちょっと声をひそめて。
「お昼休み、みんなであまったチョコ広げるから、
よかったら来てね」
「え、でも……学校じゃ……」
 わたしは唇に指をあて、ひとつウインク。
「ないしょ。年に一度のことじゃない」