「なあ」
山合いの一本道。高速を走る車の中、
運転している友人が呼びかけた。
「車に乗るときはさ、
積極的に誰かを殺そうと思ってないし、
死ねばいいとも思わないよな」
「そりゃそうだ」
「でも、事故がおきる可能性はなくせないとわかってるし、
下手な事故なら人が死ぬのもわかるよな」
「ああ」
「けど、それはわかっても便利だから車に乗るわけだ」
「まあ、そうだな」
「なんでそれが、未必の故意にならないんだ?」
「そりゃ、立法の基盤には
車の関係者が出す金があるからだろ。
死の商人が金を出せば戦争だって合法化するさ、奴らは」
それきり言葉が途切れ、すこしの沈黙。
「……待て。なんでいきなりそんなことを訊く?」
訊ねると、しばらく前を見ていたが、
口の端を震わせながら声を出した。
「さっき、なんか轢かなかったか?」