0265
2006-03-23
土の中の金
「わたし……いつか死ぬかもしれない」
 友達が、ふと電話で言ったのは何のきっかけだったろう。
「あはは、だれだっていつか死ぬよ」
 わたしが言ったのはたしかそんな言葉。
「ふふ、そうだよね」
 薄く笑った友達。

 そして、その次の日。

 ――友達が、自殺した。

「うそ……。うそだよ」
 だって、あんなに明るかったのに。
死ぬって、あんなに軽く、言ってたのに。
 でも、もし。わたしがもし、ふざけなかったら。
ちゃんと話をしていたら、今だって生きていた?
「わたしの、せい?」
 そう、きっとそう。
 わたしが、殺した。わたしが殺したんだ。
 叫び出したい狂気の中、体は勝手に電話をしていた。

「はい?」
 あたたかい彼の声。ほっとしたのに、
のどが詰まって声が出ない。
「どうかした?」
 心配そうに訊くのに。
こんなわたしが何を言えばいいのかわからない。
「あ……あの、ね」
 やだ、こわい……こわい。
「わたし」
 おでこにはじっとりと汗。
「わたしが人殺しだって言ったら、どうする?」
 何をばかなこといってるんだと笑いとばして欲しかった。
わたしがあの子にしたように。
 言いたい事をわかって欲しかった。わたしのこの絶望を。
 こんな矛盾した気持ちの中、彼は。

「なにか、あった?」
 あたたかな声。その振動が胸を叩き、震える体に涙が落ちた。
「……なんでそう訊くの?」
 揺れる声。
「うん? だって」
 言いにくそうに声をひそめて。
「冗談めかさないと言えないくらい、大事なことでしょ?」
 涙が出た。
 ……そうだったんだ。わたしが、訊けばよかったんだね。
「どうしたの、だいじょうぶ?」

「会いたい」
 傲慢なわたしの自分勝手ないいぶん。
「会いたい……」
 あいたい、あなたに。それに、友達に。
「待ってて、今いく」
「来ないで」
 口が、言っていた。
 わたしなんかが会う資格なんてない。
自分だけ楽になろうなんて許せない。
「すぐ行くから。電話、切らないでよ」
「来ないで」
 嬉しいのに、苦しい。会っちゃだめなのに。
楽になっちゃいけないのに。
「それだけはきけない。
どんな迷惑になったって会いに行くから」
「迷惑なんかじゃない……」
 電話を握り締め、胸の奥から出てくる言葉。
「――助けて!」