0281
2006-03-27
爆弾発言
 とある休日の昼。買い出しから帰る途中、
どこからかいい匂いがした。
甘く香ばしく、なんだか幸せになる香り。
 そのまま自転車を走らせていると、
普段は人のいない空き地に
大人やらこどもやらが何人も集まり、
一台の車を囲んでいるのが見えた。

 興味のままに中に入ると、
荷物を載せるような車の後ろで、
なにか長いものが回っているようだった。
近づくにつれて、香ばしさも甘い匂いも
どんどんその濃さを増していく。
 なんだろう?
 自転車を適当に混ぜてとめて近づくと、
こどもたちは手で耳をふさいで筒をにらんでいた。
「ほら、いくよ〜」
 とおじさんが言うと、

 ――どどん!
「わあっ」
 いきなりの音に半分とびのいて身構えるわたし。
気づいたこどもたちがくすくすと笑った。
 な、なに……?
「ほーら、できた」
 おじさんの手にするカゴのようなものには、
膨らんだ白い粒がたくさん。そして漂ってくる甘い匂い。
「うわ〜! 懐かしい」
 思わず声をあげると、車の持ち主らしいおじさんは
にこにこと笑みを見せた。
さっきから遠くでバイクが音を鳴らしてたと思ってたのは
これだったんだ。

「どう? 試食して、よかったら買って行ってよ」
 すこしもらって手のひらに載せて食べてみる。
 しゃわしゃわと軽快な歯ごたえ。
あたたかくて甘いお菓子。
これが元々はお米だったなんて思えないくらい。
「昔、車がくると、お米持って走りましたよ〜」
 一袋買って食べながら、
あまりの懐かしさに思わず口にすると、
まわりのこどものおかあさんたちも笑ってうんうんとうなづいた。
「そのあとずっと見かけませんでしたけど、
今まではどうしてたんですか?」
 訊ねると、にこっと笑って、
「ちょっと国際警察に捕まってな」
「ええっ?」
「いや〜、テロリストと勘違いされちゃったよ」
 爆弾屋さんのおじさんは、そう言ってからからと笑った。