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2006-03-29
モテ・モテ
 引っ越した親友の家に久しぶりに遊びに行った。
 中学の頃からモテてたし、
高校の今やさらにモテてることだろう。
 お菓子かなんかを用意しに
部屋をあけたチャンスを狙い、軽く捜索。
机の薄い引き出しを開け、すこし広いのも開け、
そして一番下のでかい引き出しをひらいたとき、
目指す一端があった。
 薄桃色のかわいらしい封筒。
中を開けると、やっぱりラブレターだった。
 初めて見る代物に、わくわくと中を読む。
  突然こんな手紙を出してごめんなさい。
  でも、このまま終わるのは嫌だったから……

  長い間待っていましたが、ようやく、手術が決まりました。
  けど、手術が失敗することもあるそうです。
  もしかしたら、そのまま死んでしまうことも。

  こんな形はいやだったけど、
  伝えられずに死ぬのはもっといや。
  だから、ここで言います。

  好きです。

  どうか、勇気をください。
「…………」
 言葉を失った。
 いけないものを見てしまった罪悪感。
もし、おれがこんな手紙をもらったら、
どう答えるのだろうという戸惑い。
 そこに、部屋の扉が開いた。
「ん? ああ、読んじゃったのか」
 ジュースと何かがのったお盆を持って、
気楽な笑みを浮かべる親友。
「これ、なんて返事したんだ?」
 訊ねると、
「うん? 別に」
「なに? なんで」
 すると普通にほほえんで、
「だって、ぶさいくだしさ」
 ああ……。
 おれがもてる男じゃなくてよかったと、
心から思わずにはいられなかった。