0292
2006-03-29
陽を浴びて輝く
「ほら見ろよ」
 教室で友人が指差すほう。
バカ女二人がすごい顔でどこかをにらみながら
ぼそぼそとろくでもない言葉を吐き出している。
 その視線の先。おれの幼馴染が
モテる男と楽しそうにしゃべっていて、
どうやらあの二人はそれが気に入らないらしい。
「あ〜あ〜、やだねえ。恋する女は醜くて」
 友人は軽くため息をつきながら言った。
「そうでもないのもいるけどな」
 おれは笑う幼馴染を眺める。

「なあ、おまえさ。好きな奴っているんだろ」
 帰り道、一緒に歩きながら訊ねると、
「うん、いるよ」
 すこし視線を落とし、はにかみながら口にした。
「昔から思ってたんだけどさ、なんでそうやっていられるんだ?」
「え?」
 おれを見て、やわらかそうな髪がさらりと流れる。
「他の女はさ、だれかが気に入ってる奴と話すだけで
すごい顔するのに、おまえがそういう風にするのは
見たことない。しっととかやきもちとか、
そういう……なんだろ、暗い情熱みたいなもんはないのか?」
「ん〜、どうかな」
 上を向いて考える、すっきりとした横顔。

「ある、たぶんあるよ」
 振り向くと、それでも陰もなく笑った。
「でもわたし、そんなところで止まっていたくない。
またあの人と会えたとき、目を止めてくれる自分になりたい。
あの人を前にしても、誇れる自分でありたい」
 胸に手をあてて、細めた目でどこかを思い見る。
「それに……」
 おれに振り返ると、見たこともない笑顔でふわっと笑って、
「たとえ立つ場所や何かが違っても、
同じ年になったとき、あんな人になっていたいと思うんだ」
 胸が高鳴って、そして引き裂かれて。
 こんな顔をさせる『あの人』を、
おれは心から憎く思った。
そして、こんなまっすぐなまぶしい人を
前に暗くゆがむ自分がとことん情けなく思えて、
おれはうつむいた顔をあげることはできなかった。