扇風機を回しながらアイスをかじり、漫画を読む一時。
これが世界で一番だ。
……と。
「こら、夏休みの宿題は終わったの?」
母さんの声。
「ん〜。まあ〜」
答えたくなくて適当にごまかそうとしてたら、
扇風機を止められた。
「なんだよ」
「どうせやってないんでしょ?
おねえちゃんに頼んできたから、お隣行ってきな」
「なんだよ〜、どうして母さんは
いつも余計なことばっか言うんだよ〜」
かっこ悪い。絶対ねえちゃんに笑われた。
勝手に人のことを決めた母さんには腹が立つが、
ねえちゃんに会えるのは嬉しいからさっさと隣に行く。
「こんちゃ〜」
ドアの前で叫ぶと、中からにこにこと
お隣のねえちゃんがでてきた。
「いらっしゃい」
相変わらずきれいな人だ。
「だれ?」
ねえちゃんの足元にちっこい女の子がいて、
ねえちゃんを見上げる。
「おとなりの子」
「ふーん」
ぱたぱたと走る音をたてて引っ込んだ。
「ごめんね。みんな出かけて、あの子だけ預かってるんだ」
居間らしいところに通されると、中はクーラーでひんやり。
さらに冷たい麦茶が出されて、しかたなく宿題を広げた。
「どれどれ。どんなのやってるの?」
横からのぞきこむねえちゃん。きれいな横顔。
しかもすごくいいにおいがする。
「へええ。わからないところ、ある?」
「だいじょうぶだよ、これくらい」
せっかくなのでまともにノートに向かっていると、
横からあのちっこいのがきて、まねするつもりなのか、
横に紙を広げてぐりぐりと何かを描きはじめた。
……はたから見たら、おれはこんなのと同じなのか。
せっかくねえちゃんといるのに、
こんなちんちくりんと一緒にされて正直がっかりだ。
「できた〜!」
おれの気も知らずにがきんちょがでかい声で紙をかざす。
ねえちゃんはそれをのぞきこみ、
「うん、上手に描けたね」
おれだけに向けていたあの笑顔で、ちびっこの頭を撫でた。
「どう? できた?」
急にふりむくねえちゃん。
「あ、う、うん。一問だけできた」
「うん、その調子」
そこへがきんちょが、
「いい子いい子しないの?」
余計な口を開いた。
ねえちゃんはくすくすと笑って、おれのそばに寄る。
なんだよ、ガキじゃあるまいし、こっぱずかしい。
「はい、よくできました」
でも、白い手、細い指がおれの頭を撫でたとたん、
髪の毛がふわーっと広がっていくような、
今までにないすごい気持ちよさが体中に広がった。
「どうしたの?」
きれいな顔できょとんと訊くねえちゃん。
「ん、べ、べつに……」
なんてこった。ガキどもは
こんなに気持ちいい事をされてたのか。
見ると、あのがきんちょは横でまた何かを描き始めている。
あわててノートに向かい、
ちびっ子のようすを伺いながら必死に頭を動かした。
「でき……」
「できた!」
おれは力一杯叫んだ。