「会社の無駄を減らして、
明日につなげられるような取り組みをしよう!」
と、上からのお達しを受けた部長が言った。
「なにかこうすれば出費が減るとか、
より仕事がしやすくなるとかがあったら遠慮なく言ってくれ」
「では、はい」
一人の女性が手を上げて、
「スーツは暑いときには暑すぎて、寒いときには寒すぎます。
それをやめて私服にすれば
暖房費も冷房費も減るうえに健康にもよいと思います」
周りにいた人は心の中で激しく拍手をしたが、
「でもなあ、スーツやネクタイしてないと、
周りから嫌な目で見られるからなあ」
部長は言った。
「わたしたちのお相手は電話の向こう側です。
こちらがどんな服かなんてまったくわからないと思いますけど」
「でもなあ、うちも客商売だし、
嫌に思う人が一人でもいるならできないからなあ」
その場にいる社員はスーツなんか脱いでしまいたいと
思っていた。
電話の向こう側にいるお客は、
相手の服などどうでもいいから仕事だけしてほしいと思っていた。
部長はスーツを着ることに喜びを感じていたし、
スーツを着ない相手には嫌悪感すら抱いていた。
「でもなあ、うちも客商売だし、嫌に思う人が
一人でもいるならできないからなあ」
部長は繰り返した。