0322
2006-04-07
もてあます自由
 中学校の教育実習で。
黒板に軽い説明を書いていると、後ろから声がした。
「せんせー、それ、書くの?」
 何を言っているんだろう?
 わたしは振り返って言う。

「書きたかったら、書いてください。
書きたくなかったら書かなくて結構です」
 どうせ同じことを話してるんだし、
聞いて理解できるなら書かなくて充分。
書かなくたって、話をきかなくなっていい。
ただ、ちゃんと聞く人の邪魔さえしないでくれれば、
わたしはそれ以上求めないから。
 でも、
「じゃあ、おれ書かねえ〜」
 どこか得意げに男の子が叫んだ。
 むかっとする胃のあたり。
 書かないなら書かなければいい。
それは自分の自由だと思う。
なのになぜそれを口に出さなきゃいけないの?

 それから、別の声。
「先生、どこに書くの?」
 どこに書く!?
 なんだか頭がぐらぐらしてきて、わたしは教卓に手をついた。
「どこに書いても結構です。書きたいところに書いてください」
 わたしが生徒なら、先生がいちいちノートを覗き込んで、
これはここにこう書けなんて言われるのには耐えられない。
 個人には個人の自由があるし、その人のやりかたがあるはず。
他人の迷惑にならないことなんて、
自分の好きにすればいいじゃない。
 けれど、さらに追い討ち。
「せんせー、いいかげん〜!」
 ざあっと音を立てて血が引く頭。
 なぜだかすこし、涙が出た。