中学校の教育実習で。
黒板に軽い説明を書いていると、後ろから声がした。
「せんせー、それ、書くの?」
何を言っているんだろう?
わたしは振り返って言う。
「書きたかったら、書いてください。
書きたくなかったら書かなくて結構です」
どうせ同じことを話してるんだし、
聞いて理解できるなら書かなくて充分。
書かなくたって、話をきかなくなっていい。
ただ、ちゃんと聞く人の邪魔さえしないでくれれば、
わたしはそれ以上求めないから。
でも、
「じゃあ、おれ書かねえ〜」
どこか得意げに男の子が叫んだ。
むかっとする胃のあたり。
書かないなら書かなければいい。
それは自分の自由だと思う。
なのになぜそれを口に出さなきゃいけないの?
それから、別の声。
「先生、どこに書くの?」
どこに書く!?
なんだか頭がぐらぐらしてきて、わたしは教卓に手をついた。
「どこに書いても結構です。書きたいところに書いてください」
わたしが生徒なら、先生がいちいちノートを覗き込んで、
これはここにこう書けなんて言われるのには耐えられない。
個人には個人の自由があるし、その人のやりかたがあるはず。
他人の迷惑にならないことなんて、
自分の好きにすればいいじゃない。
けれど、さらに追い討ち。
「せんせー、いいかげん〜!」
ざあっと音を立てて血が引く頭。
なぜだかすこし、涙が出た。