「こんにちは〜」
友達の妹さんの部屋を開けると、
机に座っていた彼女がどこか力なくわたしを見る。
「おねえちゃんに頼まれたんですか?」
その目にはどこか敵意のようなもの。
「あはは〜、うん。実はそう」
最近ちっとも食事をしないという妹さんと
話をしてと頼み込まれて来たけれど。
「わたしがなにしてたっていいじゃないですか。
ほっといてください」
通りすがりに見たとき、
いつも穏やかに笑ってたあの子とは思えなかった。
「……こうして話すのは初めてなのに。
はじめっからそういう風に言われちゃうと、わたしは悲しいな」
黒い髪、まじめそうな顔立ちの彼女の目に、
小さな後悔の色が揺らぐ。
「それにね、もしわたしがここで手首を切ったら……。
しないよ、しないけど。
手首を切ったら、死ぬまで放っておいてくれる?」
わたしが言うと、困惑や迷いをないまぜにした目で
わたしを見ながら、首を振った。
「どうして? 部屋が汚れるから?」
「ちがいます」
また首を振り、視線をずらしながらつぶやくように。
「だって……そんなの、いやです」
「わたしだっていや。
誰かが苦しんでたらなんとかしたいと思うし、
それはおねえさんやおかあさんだってそうだと思う」
しばらく黙った後、頭がこくんと下がる。
「なにか、あったの? だれかに何か言われた?」
すこしの沈黙。そして、首を振った。
「うん?」
話を軽くうながすと、
「デブは……いやだって」
ぽつりとつぶやく。
「あなたに言ったの?」
横に揺れる頭。
「聞いてたら、そうやって、言ってて」
「だれ……」
誰が? 聞こうとして、すべてがつながった気がした。
「好きな子が話してるの、聞いたんだ?」
小さなうなづき。
ああ……。それで思いつめちゃったんだ、この子。
好きな人に好きになって欲しくて。
ただそれだけで、こんな無茶を。
「ねえ、その男の子だって、あなたが太ってるなんて
思ってなかったよ」
頭を撫でると、勢いよくあがった頭がわたしに。
「うそ!」
「うそじゃないよ。前からやせすぎっぽい気はしてたし。
あなたはあのときよりも太るくらいでちょうどいいと思うけどな」
「なんでそんなのわかるんですか」
憎しみを込めた目に、
「わかるよ。立ってみて?」
疑いながらも立ち上がるその子を、
正面からぎゅっと抱きしめる。
「あっ……」
折れてしまいそうな細さ。
すこし悲しくなってわたしは頭を寄せて、言う。
「抱きしめたときにふんわりやわらか。
それが一番気持ちいいもん」