0330
2006-04-12
真摯
 数学の自習時間。出された問題用紙に悩んでいると、
前のほうから声がした。
「やってないの?」
 斜め前の男子の問いに、わたしの前の子は振り向いて、
「あたし、ばかだから」
 眉を寄せて笑った。
 なんだか悲しくなっていると、彼は言う。

「なにがどうだとばかなわけ?」
「だって……あたしじゃこんなのわかんないし」
 すると、にっこり笑って。
「じゃあ、ばかだからわかんないんじゃなくて、
わかんないからばかだって言ってるんだろ? 
なら、できたらばかじゃなくなるわけだ」
「え……」
 ぽかんと男の子を見る彼女。
「そんなに自分を貶めなくてもいいじゃない。
それとも、ばかを理由に何もしたくないだけ?」
 女の子は首を振り、
「あたしだって、わかるなら、やりたい」
「じゃ、一緒にやろう」
 彼は軽く机を寄せた。
 なんだかすこし嬉しく、そしてうらやましくなって、
「あ、ねえ」
 手を上げ呼びかける。
「わたしもわからないんだけど、いい?」
「うん」
 そしてちらっとわたしの紙を見ると、あたりを見回した。
「あとは誰かわかる奴も呼ぼう」