数学の自習時間。出された問題用紙に悩んでいると、
前のほうから声がした。
「やってないの?」
斜め前の男子の問いに、わたしの前の子は振り向いて、
「あたし、ばかだから」
眉を寄せて笑った。
なんだか悲しくなっていると、彼は言う。
「なにがどうだとばかなわけ?」
「だって……あたしじゃこんなのわかんないし」
すると、にっこり笑って。
「じゃあ、ばかだからわかんないんじゃなくて、
わかんないからばかだって言ってるんだろ?
なら、できたらばかじゃなくなるわけだ」
「え……」
ぽかんと男の子を見る彼女。
「そんなに自分を貶めなくてもいいじゃない。
それとも、ばかを理由に何もしたくないだけ?」
女の子は首を振り、
「あたしだって、わかるなら、やりたい」
「じゃ、一緒にやろう」
彼は軽く机を寄せた。
なんだかすこし嬉しく、そしてうらやましくなって、
「あ、ねえ」
手を上げ呼びかける。
「わたしもわからないんだけど、いい?」
「うん」
そしてちらっとわたしの紙を見ると、あたりを見回した。
「あとは誰かわかる奴も呼ぼう」