はじめてで緊張しどおしだった三者面談も
ようやく終わりに近づいてきた。
嫌なことでも伝えなきゃいけない悪ガキたちとは違い、
次の子は気楽だった。
学校でどんなにひたむきで、目配りもできるか、
たくさん話すから家で思いっきり誉めてもらうといい。
そしてその子と母親と向き合って座ると、
開口一番その子の母親が言った。
「先生、うちの子、勉強しないんです」
え?
授業中はもちろん、休み時間にも勉強してるのを見かけるのに。
「え、ですが……」
口を開くと、あの子のにらむような、
すがるような目がわたしに。
言わないで。そう求めるように小さく首を振る。
何も言えずに言葉を切ると、母親は続けた。
「家ではどんなに叱っても殴っても、
絶対勉強しようとしないんですよ。
うちの子はほんとにだめな子なんです」
目を移すと、彼女は悲しそうな顔をして目をそらした。
「先生、どうすればいいと思いますか?」
……なにを、どうする?
だって学校じゃ自分から
委員会だの片付けだのの仕事も引き受けるし、
勉強でつまづいてる子が周りにいれば、
素直に教えられるような子じゃないか。
「とりあえず、何も言わずに見守るのがいいと思いますけど」
「それじゃだめなんです、先生。
この子はわたしが言わないと勉強しようともしないんですよ」
何を言うんだろう、この人は。
「言っても勉強しないんでしょう?
なら言わなくていいじゃないですか」
「それはわかります。
でも……厳しく言ってもそうなのに、
言わなかったらどんなことになるか」
「どんなことになるか、試してみてもいいと思いますけど」
「それはわかります。でも……それじゃだめなんです。
この子はだめな子なんです」
「なぜだめなんです?
そう言わずに、期待して待ってみればいいじゃないんですか?」
「おっしゃることはわかります。でも……」
「うそです」
言葉を切るようにわたしは口にした。
「話を『でも』でつなぐ人は何もわかってないですよ」