0348
2006-04-16
隷属国
 ローマ字の勉強で生徒たちにいくつかの文を書かせたところ、
一人の女の子が書いたものに思わず笑った。

  Watashi ha ojisan ni itumo koi wo saseraremasu.

  わたしはおじさんに、いつも恋をさせられます。

 『させられる』じゃなくて『してしまいます』でしょ?
 でも、恋をさせられるというのも、言い得て妙かもしれない。
こんな小さな女の子に恋させるなんて、
よっぽどすてきなおじさんなんだろうな。

 ……そんな場面が一瞬にして目の前によみがえった。
 その文を書いた女の子が自殺をし、
原因はどうやら親戚からの性行為にあったと聞いたときだ。
 もしわたしがもっと察しのいい人間だったら。
 もしこの国が属国根性に犯されず、koiとkouiを
書き分けるくらい、自国語とその発音を誇れていたなら。
あの子は、今もまだ生きていたのかも知れない。

 そんな風にとりかえしのつかないことを思い、
わたしはgokaiなgokaiをした自分を激しくさいなんだ。