0374
2006-04-23
道案内
「ねえ、君たち。ちょっと道を教えて欲しいんだけど」
 学校からの帰り道、すこし季節外れに
コートを着た男に声をかけられた。
「待って」
 わたしは手を出し、男をその場に止めると、
純粋な友達にはここからすこし離れているように言った。
 友達がよくわからない顔をしながら歩いていくのを見て、
わたしはコートからすね毛のもじゃもじゃした足を
のぞかせる男に向き直る。

「ねえ、おじさん、知ってる? 
荒い馬って去勢したらおとなしくなるんだって」
 とりあえず顔だけ笑顔をとりつくろって、
「はい、で、どこまでの道を教えて欲しいわけ? 
さっきからコートから出そうとしてるのは、
もちろん地図だよね? 
何か違うものでも出したら……そぎ落とすからね」
 わたしはおっさんの目をにらみつけた。
「犯罪者は一度うまくいくとつけあがる。
おじさんにも家族とか、もしかしたらこどもとかが
いたりするんでしょ? 
手遅れにならないうちにここでやめないと、
みんなが不幸になるよ」

 わたしが言うと、おっさんは複雑な顔をして、
ぺこりと頭を下げると走り去って行った。
 ほっとして友達のところに戻るわたしに、
「どうしたの?」
 友達はなにもわかってないように訊ねた。
 そこでわたしは一言。
「ちょっと道を教えてきたよ」