「ねえ、君たち。ちょっと道を教えて欲しいんだけど」
学校からの帰り道、すこし季節外れに
コートを着た男に声をかけられた。
「待って」
わたしは手を出し、男をその場に止めると、
純粋な友達にはここからすこし離れているように言った。
友達がよくわからない顔をしながら歩いていくのを見て、
わたしはコートからすね毛のもじゃもじゃした足を
のぞかせる男に向き直る。
「ねえ、おじさん、知ってる?
荒い馬って去勢したらおとなしくなるんだって」
とりあえず顔だけ笑顔をとりつくろって、
「はい、で、どこまでの道を教えて欲しいわけ?
さっきからコートから出そうとしてるのは、
もちろん地図だよね?
何か違うものでも出したら……そぎ落とすからね」
わたしはおっさんの目をにらみつけた。
「犯罪者は一度うまくいくとつけあがる。
おじさんにも家族とか、もしかしたらこどもとかが
いたりするんでしょ?
手遅れにならないうちにここでやめないと、
みんなが不幸になるよ」
わたしが言うと、おっさんは複雑な顔をして、
ぺこりと頭を下げると走り去って行った。
ほっとして友達のところに戻るわたしに、
「どうしたの?」
友達はなにもわかってないように訊ねた。
そこでわたしは一言。
「ちょっと道を教えてきたよ」