あらすじ:
昔々、人類初の女性が神々にすべてを与えられて作られた。
その麗しくみずみずしい体に収まりきれない分は
箱に入れてお土産としてもたされた。
そのとき神々に『その箱は決して開けてはいけない』と
言われたようにずっと押入れの奥にしまっておいた
女性だったが……!
「うわっちゃべー!」
彼女は叫んだ。
衣替えで押入れを整理していたときに、
うっかり箱が落ちてきてふたが開いてしまったのだ。
中からはなにやらまがまがしいものが
ズルリと這い出して行ったような感覚。
これ……開けたらやっぱりいけなかったんだよね?
半笑いを浮かべてぽりぽりと頬をかきながら悩んでいると、
「なんか今でていかなかった?」
夫が後ろから声をかけてきた。
「うひゃぁあああ!」
あわててずれたふたを閉める。
「あれっ、もしかして、箱、開けたの?
なになに、何はいってた?」
目を輝かせながら駆け寄ってくる。
……まずい! 中身が空だなんてわかったらきっと身の破滅。
危険を察知した彼女の頭の中は高速回転を始め、
一つの答えが口から出た。
「た、たぶん猫」
「うほぉおっ、猫? どんな猫? ぼくにも見せてよ」
箱の横でやきもきと身をゆする夫。
「だめっ!」
彼女は叫んだ。
「こ、この中には希望という名の猫が入ってる。
箱の中には他に、好奇心検出器、
さらに毒ガスの発生装置も入っていて……
わたしはうっかり見ちゃったからいいけど、
あなたがもし中身に好奇心を持ちながら箱を開ければ、
それを検出器が感知し、それにくっついた
毒ガスの発生装置が作動し、猫は死ぬ」
「でも、いま猫が死んでいたら、
開けても結果は変わらないわけだよね?
しかももし死んだ猫が入ってると思ったら、
ぼくは何の好奇心ももてないから、ふたを開けても平気になる」
「うん。だけど、いま猫が生きているか
死んでいるかはわからない。
いうなれば、生きていて、死んでいるという
重ねの状態にあるわけ。
あなたがふたを開けて観察したことにより、
猫の生死が決定してしまう。こういう状態なのよ」
「うーん」
夫はうなった。
「好奇心は猫を殺す、かぁ」