神様は初めて人間として作った女性に箱を与え、
これは決して開けてはならないと申し付けた。
中身はなんですか? 彼女が訊ねると、
「それはそれはすばらしいものだ」
神様は答えた。
すばらしいもの? それはどんなものだろう。
彼女は夢に見るほど思いながら、人間の世界に遣わされた。
それから彼女は箱の中を思いながら日々をすごし、
箱の中を思いながら結婚し、
箱の中を思いながら二人のときをすごし――
とうとう、がまんできなくなってこっそり開けてしまった。
のぞきこむ中身は空っぽ。
その瞬間、彼女の心の中にあまたのどす黒いものがわきだす。
あんなに長い間期待してきたのに。
こんなに夢見る気持ちでいたのに。
神様はすばらしいものが入っていると言ったのに。
……だまされた、侮辱された、裏切られた!
あんにゃろう、ブチコロス!
自分に、そして神に絶望した彼女だったが、
新しい感情に突き動かされるままには箱を元通りにすると、
夕飯の席で夫にそれを渡しながら言った。
「さあ、わたしが神から与えられたこの箱!
不思議なものが入っています。
見えるけれども、見えぬもの。
口で言うにはむずかしく、目で捉えるには形なく。
開けないならばどんどん育ち、
開けたらふわりと消えるもの。決して開けてはいけません」
「いったいどういうものなんだい?」
夫が訊くと、
「な・い・しょ」
彼女は企みを胸に、にやりと笑うのだった。