0397
2006-04-27
あたえすぎた。
 はるか昔、神話の世界。
神は自分の許しなしに火を盗んで手に入れた人間に怒り、
最初の女性を作ってすべてを与えた。
 これで男しかいない人間たちに痛い目を見せてやれる……!
 神は冷たい喜びを胸に、仕上げとして
あらゆる厄災を詰め込んだ壺を出すと、
「いいか、これは決して開けてはならない」
 しっかりと言い含めながら彼女に差し出した。
 ……所詮は人間、こう言っておけばいつかは
開けてしまうだろう。
 火を盗まれるのも予期しなかったほどの
全知全能ではない神は笑いをこらえるのに必死だった。

「さあ、受け取れ」
 中に何があるかも知らぬまま大事に持ち続け、
そしていつか自分の手で自分たちの首を絞めるがいい。
 そこへ彼女はしずしずと歩み寄り、
うやうやしく頭を下げると、言った。
「それをいただくことなど出来ません」
「なぜだ?」
 思いもかけぬことにききかえすと、
「わたくしにお与えくださった名、『すべての贈り物』。
わたしくしはすでにすべてをいただいております。
これ以上のものをいただきましては、
お与えくださった名が偽りとなり、
あなたさまを汚してしまうでしょう」
 そう言われて神が二の句をつげずにいると、続けた。
「加えましては壺という、開けて使ってこそのものに
開けてはならぬと言い含めながら、
お与えくださるそのご真意をお教え願えますか? 
ただ開けずに愛でるものでしょうか? 
それともお守りでしょうか? 
またそれとも開けてはならぬとおっしゃりながら、
わたくしが開けるのをお望みになっているわけにも
ありますまい。まさか神ともあろうおかたが
そのような畜生にももとる行為をなさるとも思えません。
ぜひわたくしめに、開けてはいけない壺を
託される意味をお教えくださいまし」