0428
2006-05-11
恋のマホウ
「これ、サイズ違いありますか?」
 高くない服屋さんでぶらぶら見てたら、
向こうから友達っぽい声が聞こえた。
 のぞいてみるとやっぱり友達。
そばには初めて見る、彼氏らしい人。
 とりあえず二人そろっているところを
こっそりカメラに収めてようすをうかがっていると、
モノに満足したらしい彼氏がレジに向かい、
友達はその場に残った。

 そこで彼氏を見送る友達の後ろから忍び寄り、声をかける。
「店員に声かけるところなんて、はじめて見たよ。
あと彼氏の顔もね」
 友達は跳ね上がるほど驚いて、
「な、なんで?」
 慌てた顔でわたしに振り向いた。
「偶然、ぐうぜん」
 手を振って落ち着かせ、あらためて驚きを口にする。
「めずらしいね、自分から声かけるなんて。
いつも置いてなかったら別にいいとか言って諦めちゃうのに」
 そしてわたしが声かけるのに。

「え? あ、うーん」
 まだどこかあわあわしながら、
「彼もね、あれば欲しいって言うのに、
自分のだと訊いてまではいらないって言うんだ」
「で、代わりに声をかけてる、と」
 訊くと困った顔で薄く笑いながら、
「なんかね、なんだかよくわかんないけど……
自分のじゃないと、だいじょうぶみたい」
 そう言って目をほそめる友達に、
微妙な嬉しさと寂しさを感じて。
「大事な人のためにだけ出せる勇気、かぁ」
 つぶやきながら、心で泣いた。