0442
2006-05-18
現実派
 遠く海を見渡せる崖の上、
車から降りた家族三人が潮風に吹かれながら
青色をそれぞれの瞳に写していた。
「あぶないからこれ以上先に行っちゃだめだぞ」
 父親が言うと、少女はいたずらな光をその目に浮かべ、訊ねた。
「ねえ、もしわたしとおかあさんが一緒に落ちそうになって、
どっちかしか助けられないとしたら、どうする?」
 妻と娘に見つめられながら、彼は真剣に考えて口を開いた。
「そうだな……。たぶん、両方助けようとして
自分も一緒に落ちちゃうだろうな。
いや、それよりも、きっとそんな状況だったら
何もできずに呆然としてる間に二人ともいなくなってると思う。
そして自分に嫌気が差して、自分も飛び降りようとする、かな。
でもするだけでおじけづいて、どうせ何もできずに引き返して、
後悔に苛まれながら一生を送る気がする」